当事業年度における医薬品業界は、各国の財政悪化に伴う医療費抑制策やジェネリック医薬品の処方拡大、さらに国内において薬価制度の抜本改革といった薬剤費抑制の流れが加速するなど、引き続き厳しい環境下に推移いたしました。ライフサイエンス技術やICTの飛躍的進展によるイノベーション創出機会の高まりや競争激化など、医薬品業界において、さらなる環境変化も予想されております。
当社グループは、ロシュとの戦略的提携に基づくユニークなビジネスモデルと独自のサイエンス力・技術力を生かして、「患者中心の高度で持続可能な医療を実現する、ヘルスケア産業のトップイノベーターになる」ことを宣言し、この目標の実現に向け、中期経営計画「IBI 21」を開始いたしました。
「IBI 21」の初年度である当事業年度は、当社創製品の血液凝固第Ⅷ因子機能代替製剤「ヘムライブラ」、ロシュからの導入品である抗悪性腫瘍剤/改変型抗PD-L1ヒト化モノクローナル抗体「テセントリク」などの重要な新製品の市場浸透が順調に進み、世界市場でも自社創製品が大きく成長いたしました。
個別化医療の推進においては、より高度ながん個別化医療の実現を目指した遺伝子変異解析プログラム「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」※7の承認を取得し、抗悪性腫瘍剤/チロシンキナーゼ阻害剤「ロズリートレク」が、がん種を問わず「NTRK 融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がん」に対する治療薬として、他国に先駆けて日本で承認を取得いたしました。
研究開発面では、将来の成長ドライバーと期待する「SA237(サトラリズマブ)」(予定適応症:視神経脊髄炎スペクトラム)や「CIM331(ネモリズマブ)」(予定適応症:アトピー性皮膚炎)の開発が進展し、当社が新たなモダリティとして位置付ける中分子医薬のプロジェクトも順調に進展しました。また、当社の中核的研究拠点となる「中外ライフサイエンスパーク横浜」の起工式を執り行い、2023年の本稼働に向けて準備が進んでおります。加えて、低中分子医薬品の製造のための新棟の建設も中外製薬工業株式会社藤枝工場で始まるなど、多くの成果を挙げることができました。
当事業年度の売上収益は6,862億円、営業利益は2,249億円、当期利益は1,676億円(いずれもCoreベース)となりました。
当社事業の核(コア)である医薬品事業から発生する経常的な収益性を管理するための指標として、2013年からCore実績を採用しております。Core実績とは、IFRS実績から当社が非経常的と捉える事象等に係る損益等を除いたものです。当社では、経常的な収益性の推移を社内外一貫してCore実績で説明すると共に、株主還元をはじめとする成果配分を行う際の指標としてもこれを使用しております。
国内製商品売上高
国内製商品売上高は、がん領域における新製品や主力品、骨・関節領域における主力品、その他領域の新製品等の好調な推移により、4,376億円(前事業年度比9.4%増)となりました。
がん領域の売上は、2,405億円(同6.6%増)となりました。主に後発品発売の影響により抗悪性腫瘍剤/抗CD20モノクローナル抗体「リツキサン」などの売上が減少したものの、主力品の抗悪性腫瘍剤/HER2二量体化阻害ヒト化モノクローナル抗体「パージェタ」や新製品の「テセントリク」が好調に推移したことによります。
骨・関節領域の売上は、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体「アクテムラ」、経口骨粗鬆症治療剤「エディロール」といった主力品の堅調な推移により、1,084億円(同7.9%増)でした。
腎領域の売上は、346億円(同4.7%減)、その他領域の売上は、2018年の長期収載品※8譲渡の影響を受けたものの、新製品の「ヘムライブラ」の順調な市場浸透により、541億円(同44.3%増)となりました。
一方、10月24日に公表した修正予想に対して、国内製商品売上高は、4,376億円(修正予想比0.1%増)となっております。
海外製商品売上高
「アクテムラ」、抗悪性腫瘍剤/ALK阻害剤「アレセンサ」のロシュ向け輸出の増加により、海外製商品売上高は1,513億円(前事業年度比18.3%増)となりました。10月24日に公表した修正予想に対しては、1.5%増となっております。
連結損益の概要(IFRSベース)
当事業年度の売上収益は6,862億円(同18.4%増)、営業利益は2,106億円(同69.4%増)、当期利益は1,576億円(同69.3%増)となりました。これらには当社が管理する経常的業績(Coreベース)から除外している無形資産の償却費12億円、無形資産の減損損失26億円、早期退職優遇措置51億円、事業所再編費用28億円及び訴訟関連損益として26億円が含まれています。
連結損益の概要(Coreベース)
当事業年度の売上収益は、製商品売上高、ロイヤルティ※9等収入及びその他の営業収入共に伸長し、6,862億円(同18.4%増)となりました。
売上収益のうち、製商品売上高は、国内のがん領域における新製品や主力品、骨・関節領域における主力品、その他領域の新製品等の好調な推移に加え、「アレセンサ」、「アクテムラ」のロシュ向け輸出の増加により、5,889億円(同11.6%増)となりました。ロイヤルティ等収入及びその他の営業収入は、「ヘムライブラ」に関するロイヤルティ及びプロフィットシェア収入が大幅に増加し、973億円(同87.5%増)となりました。加えて、製品別売上構成比の変化等により、製商品原価率が45.0%と前事業年度比で4.6%ポイント改善した結果、売上総利益は4,211億円(同32.5%増)となりました。
経費については、1,962億円(同4.6%増)となりました。販売費は735億円(同0.3%減)、研究開発費は開発テーマの進展等により1,021億円(同8.4%増)、一般管理費等は主に法人事業税(外形標準課税)の増加により206億円(同4.6%増)となりました。以上から、Core営業利益は2,249億円(同72.6%増)、Core当期利益は1,676億円(同72.3%増)となりました。
一方、10月24日に公表した修正予想に対して、売上収益は6,862億円(修正予想比0.9%増)、製商品原価率は45.0%と修正予想を0.2%ポイント改善、経費は1,962億円(同0.4%減)となりました。この結果、Core営業利益は2,249億円(同3.2%増)となり、「アレセンサ」のロシュ向け輸出等の増加を主因として修正予想を上回りました。
当社グループは、医療用医薬品に関して国内外にわたる積極的な研究開発活動を展開しており、国際的に通用する革新的な医薬品の創製に取り組んでおります。国内では、御殿場[静岡県]、鎌倉[神奈川県]に研究拠点を配置し、連携して創薬の研究を行う一方、浮間[東京都]では工業化技術の研究を行っております。また、海外では、中外ファーマ・ユー・エス・エー・インコーポレーテッド[アメリカ]、中外ファーマ・ヨーロッパ・リミテッド[イギリス]、日健中外科技(北京)有限公司[中国]、台湾中外製薬股份有限公司[台湾]が医薬品の開発・申請業務を、中外ファーマボディ・リサーチ・ピーティーイー・リミテッド[シンガポール]が医薬品の研究開発を行っています。
薬の候補化合物の発見から医薬品として発売するまでに9年から17年近くの年月がかかります。
臨床開発活動につきましては、下記の進展がありました。