事業の経過及びその成果

事業活動の概況

 当事業年度は、年初からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的感染拡大が社会経済に多大なる影響を及ぼし、依然として感染拡大が収束に向かわず、見通しの不透明な状況が続きました。さらに、世界各国の財政悪化に伴う医療費抑制策やジェネリック医薬品の処方拡大、さらに国内における薬価中間年改定の対象範囲が広く決定されるなど薬剤費抑制の流れが加速するなど、医薬品業界は引き続き厳しい環境下で推移いたしました。ライフサイエンス技術やICTの飛躍的進展によるイノベーション創出機会の高まりや競争激化などの環境変化の中、今後はこれまで以上に、真に価値の高い医薬品やソリューションだけが選択されるバリューベースド・ヘルスケア※1の流れが加速していくと捉えております。
 当社グループは、ロシュとの戦略的提携に基づくユニークなビジネスモデルと独自のサイエンス力と技術力を生かして、「患者中心の高度で持続可能な医療を実現する、ヘルスケア産業のトップイノベーターになる」ことを宣言いたしました。この目標の実現に向け、2019年1月よりスタートした中期経営計画「IBI 21」に取り組み、「グローバル成長ドライバーの創出とその価値最大化」及び「事業を支える人財・基盤の強化」を重点テーマとし、実現に向けた「5つの戦略」を掲げて革新を通じた持続的な企業成長を目指してまいりました。
 「IBI 21」の2年目である当事業年度は、新型コロナウイルスの影響により情報提供活動が制限された影響もあり、当社創製品の血液凝固第Ⅷ因子機能代替製剤「ヘムライブラ」、ロシュからの導入品である抗悪性腫瘍剤/改変型抗PD-L1ヒト化モノクローナル抗体「テセントリク」については大きく伸長したものの、挑戦的な計画には到達いたしませんでした。世界市場では「ヘムライブラ」が大きく伸長したほか、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体「アクテムラ」のCOVID-19需要やpH依存的結合性ヒト化抗IL-6レセプターモノクローナル抗体「エンスプリング」の米国等での承認・販売開始等、様々な成果が現れました。次世代成長機会の連続創出においては、スイッチ抗体※2「STA551」の第I相臨床試験を開始し、抗IL-31レセプターAヒト化モノクローナル抗体ネモリズマブは導出先であるマルホ社が国内申請を果たしました。また、中分子プロジェクト「APOLLO」は第I相臨床試験開始に向け進展、中外製薬工業株式会社藤枝工場においては、中分子の原薬を製造する新合成原薬製造棟(FJ2)が2022年5月稼働へ向けて建設中であるなど、開発加速へ向けた体制整備が順調に進捗いたしました。個別化医療高度化・デジタル活用基盤の構築においては、血液検体を用いたリキッドバイオプシー検査※3である「FoundationOne LiquidCDx」や、新たな遺伝子変異を診断するためのコンパニオン診断機能追加の承認申請を行いました。また、Chugai Digital Vision2030を策定・公表したことに加え、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020」に、医薬品業界から唯一選出されました。
 当事業年度の売上収益は7,869億円、営業利益は3,079億円、当期利益は2,194億円(いずれもCoreベース)となりました。

ご参考 Core実績の採用について

当社事業の核(コア)である医薬品事業から発生する経常的な収益性を管理するための指標として、2013年からCore実績を採用しております。Core実績とは、IFRS実績から当社が非経常的と捉える事象等に係る損益等を除いたものです。当社では、経常的な収益性の推移を社内外一貫してCore実績で説明すると共に、株主還元をはじめとする成果配分を行う際の指標としてもこれを使用しております。


売上の状況



国内製商品売上高

 国内製商品売上高は、4月の薬価改定と後発品浸透の影響によりがん領域、骨・関節領域及び腎領域における主力品の売上が減少したため、4,091億円(前事業年度比6.5%減)となりました。
 がん領域の売上は、2,295億円(同4.6%減)となりました。新製品の「テセントリク」の市場浸透に加え、主力品の抗悪性腫瘍剤/ALK阻害剤「アレセンサ」や抗悪性腫瘍剤/HER2二量体化阻害ヒト化モノクローナル抗体「パージェタ」が堅調に推移したものの、薬価改定や後発品浸透の影響により抗悪性腫瘍剤/抗VEGFヒト化モノクローナル抗体「アバスチン」や抗悪性腫瘍剤/抗HER2ヒト化モノクローナル抗体「ハーセプチン」などの売上が減少したことによります。
 骨・関節領域の売上は、薬価改定の影響により「アクテムラ」の売上が減少したことに加え、後発品発売の影響により骨粗鬆症治療剤「エディロール」の売上が大きく減少したことなどにより、924億円(同14.8%減)となりました。
 腎領域の売上は、薬価改定に加え、後発品発売に伴う価格競争の激化による持続型赤血球造血刺激因子製剤「ミルセラ」の売上減少などにより286億円(同17.3%減)となりました。
 その他領域の売上は、抗インフルエンザウイルス剤「タミフル」の通常シーズン向けの売上が前年を大幅に下回ったものの、新製品の「ヘムライブラ」や遺伝子変異解析プログラム「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」※4及び8月に発売した「エンスプリング」の市場浸透により、587億円(同8.5%増)となりました。
 一方、1月30日に公表した通期予想に対して、国内製商品売上高は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、「ヘムライブラ」、「テセントリク」などの新製品や適応拡大品の市場導入が影響を受けたものの、「アバスチン」、「パージェタ」などの主力品が想定を上回って推移した結果、4,091億円(通期予想比0.6%減)となりました。

海外製商品売上高

 新型コロナウイルス肺炎を対象とした臨床試験用を含む「アクテムラ」のロシュ向け輸出の増加や、「ヘムライブラ」の通常出荷価格によるロシュ向け輸出の開始、加えて「エンスプリング」のロシュ向け輸出の開始により、海外製商品売上高は2,242億円(前事業年度比48.2%増)となりました。
 一方、1月30日に公表した通期予想に対して、海外製商品売上高は、「アクテムラ」のロシュ向け輸出の大幅な増加をはじめ、ロシュ向け輸出が想定を大きく上回り、2,242億円(通期予想比33.1%増)となりました。


損益の状況

連結損益の概要(IFRSベース)

 当事業年度の売上収益は7,869億円(前事業年度比14.7%増)、営業利益は3,012億円(同43.0%増)、当期利益は2,147億円(同36.2%増)となりました。これらには当社が管理する経常的業績(Coreベース)から除外している無形資産の償却費13億円、無形資産の減損損失6億円、事業所再編費用47億円及び環境対策費用1億円が含まれています。

連結損益の概要(Coreベース)

 当事業年度の売上収益は、国内製商品売上高の減少の一方、海外製商品売上高、ロイヤルティ※5等収入及びその他の営業収入が伸長し、7,869億円(前事業年度比14.7%増)となりました。
 売上収益のうち、製商品売上高は、国内製商品売上高が4月の薬価改定の影響等により減少した一方、新型コロナウイルス肺炎を対象とした臨床試験用を含む「アクテムラ」のロシュ向け輸出の増加や、「ヘムライブラ」の通常出荷価格によるロシュ向け輸出の開始、加えて「エンスプリング」のロシュ向け輸出の開始により海外製商品売上高が大幅に増加し、6,333億円(同7.5%増)となりました。ロイヤルティ等収入及びその他の営業収入は、「ヘムライブラ」に関するロイヤルティ及びプロフィットシェア収入の大幅な増加と、一時金収入によるその他の営業収入の増加により、1,536億円(同57.9%増)となりました。加えて、「ヘムライブラ」をはじめとする自社品の売上構成比の増加等により、製商品原価率が43.0%と前事業年度比で2.0%ポイント改善した結果、売上総利益は5,147億円(同22.2%増)となりました。
 経費については、2,067億円(同5.4%増)となりました。販売費は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う国内営業活動の自粛・抑制により715億円(同2.7%減)、研究開発費は開発テーマの進展に伴う費用の増加等により1,135億円(同11.2%増)、一般管理費等は主に法人事業税(外形標準課税)及び諸経費等の増加により217億円(同5.3%増)となりました。以上から、Core営業利益は3,079億円(同36.9%増)、Core当期利益は2,194億円(同30.9%増)となりました。
 一方、1月30日に公表した通期予想に対して、売上収益は7,869億円(通期予想比6.3%増)となりました。「アクテムラ」をはじめとするロシュ向け輸出の増加を主因として、当初の予想を上回りました。また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う国内営業活動の自粛・抑制による販売費等の減少により、経費は2,067億円(同3.0%減)となりました。この結果、Core営業利益は3,079億円(同12.0%増)となりました。

新型コロナウイルス感染症への取り組み及び業績への影響について

 新型コロナウイルス感染症への当社の対応といたしましては、年間を通じて、従業員及び事業関係者への感染防止、緊急事態時における医療機関及び患者の方への負担減とサポート、そして製品の安定供給体制の維持を中心に取り組んでまいりました。これまでのところ、国内及び海外ともに製品供給への影響は出ておりません。引き続き、状況の変化を注視するとともに、同様の取り組みを行ってまいります。
 当連結会計年度での新型コロナウイルス感染症の業績影響については、売上収益及び各段階利益に大きなマイナスインパクトはなかったものの、一部事業活動の進捗では影響を受けました。まず、国内の販売面につきましては、「テセントリク」、「ヘムライブラ」などの新製品や適応拡大品の市場導入が影響を受けました。市場浸透は確実に進んでおりますが、営業活動の自粛、入院及び外来患者数の減少、不透明な生活環境の中で新薬への切り替えの見送りなどさまざまな理由が重なったため、市場浸透のスピードが想定よりも遅れました。海外への販売につきましては、新型コロナウイルス肺炎を対象とした臨床試験用を含む「アクテムラ」のロシュ向け輸出が増加いたしました。また、「ヘムライブラ」のロシュ向け輸出は順調に増加したものの、海外での市場浸透が当社の想定より遅れたため、ロイヤルティ収入が影響を受けました。経費については、国内営業活動の自粛等により一部経費の発生が抑制されました。承認申請や審査対応などの薬事関連業務につきましては、申請あるいは承認時期については大きな影響はありませんでした。開発中のプロジェクトでは、医療施設による訪問規制や患者の来院自粛等の理由により、治験の開始時期や進捗などスケジュールの遅延が一部で発生しましたが、大きな影響はありませんでした。創薬研究活動につきましては、一部のプロジェクトでスケジュール変更を行いましたが、優先度の高いプロジェクトの遅延はありませんでした。設備投資等プロジェクトは、建設中の中外ライフサイエンスパーク横浜で、緊急事態宣言の期間中に一部の工事を中断しましたが、全体工期への影響は限定的でございます。
 以上のように、新型コロナウイルス感染症により一部事業活動の進捗は影響を受けましたが、業績へのマイナス影響は限定的でありました。不透明な事業環境が続きますが、引き続き、従業員及び事業関係者への感染防止、医療機関及び患者の方への負担減とサポート、そして製品の安定供給体制の維持を中心に取り組んでまいります。


研究開発活動の状況

 当社グループは、医療用医薬品に関して国内外にわたる積極的な研究開発活動を展開しており、国際的に通用する革新的な医薬品の創製に取り組んでおります。国内では、御殿場、鎌倉に研究拠点を配置し、連携して創薬の研究を行う一方、浮間では工業化技術の研究を行っております。また、海外では、中外ファーマ・ユー・エス・エー・インコーポレーテッド[アメリカ]、中外ファーマ・ヨーロッパ・リミテッド[イギリス]、日健中外科技(北京)有限公司[中国]、台湾中外製薬股份有限公司[台湾]が医薬品の開発・申請業務を、中外ファーマボディ・リサーチ・ピーティーイー・リミテッド[シンガポール]が医薬品の研究開発を行っています。


ご参考 研究開発費の推移

臨床開発活動につきましては、下記の進展がありました。

(ⅰ)がん領域

・抗HER2抗体チューブリン重合阻害剤複合体「カドサイラ」は、8月にHER2陽性の乳がんにおける術後薬物療法の適応拡大について承認を取得しました。
・ROS1/TRK阻害剤「ロズリートレク」は、2月にROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんの適応拡大について承認を取得しました。
・「テセントリク」は、2月に、切除不能な進行・再発の肝細胞がんを対象として承認申請を行い、9月に承認を取得しました。また、7月に腎細胞がん(カボザンチニブとの併用)、8月に非小細胞肺がん(ステージⅢ)(RG6058との併用)を対象としてそれぞれ第Ⅲ相国際共同治験を開始しました。加えて10月に膵臓腺がんを対象として第Ⅰ相国際共同治験(「RG6058」又は「RG1569」との併用)を開始しました。第Ⅲ相国際共同治験IMvigor010及びIMmotion151の結果に鑑み、筋層浸潤尿路上皮がん(アジュバント)及び腎細胞がんを対象とする開発をそれぞれ中止しました。
・「アバスチン」は、2月に切除不能な進行・再発の肝細胞がんを対象として承認申請を行い、9月に承認を取得しました。また、1月に小細胞肺がんを対象として国内第Ⅲ相臨床試験(「RG7446」との併用)を開始しました。第Ⅲ相国際共同治験IMmotion151の結果に鑑み、腎細胞がんを対象とする開発を中止しました。
・抗CD79b抗体薬物複合体「RG7596」は、6月に、再発又は難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を対象として承認申請を行いました。
・抗TIGITヒトモノクローナル抗体「RG6058」は、2月に小細胞肺がん、3月に非小細胞肺がん、8月に非小細胞肺がん(ステージⅢ)、9月に食道がんを対象としてそれぞれ第Ⅲ相国際共同治験(「RG7446」との併用)を開始しました。
・腫瘍溶解性5型アデノウイルス「OBP-301」は、3月に食道がんを対象として第Ⅱ相臨床試験を開始しました。
・「AMY109」は、3月に固形がんを対象として第Ⅰ相臨床試験を開始しました。
・抗CD137アゴニストスイッチ抗体「STA551」は、3月に固形がんを対象として第Ⅰ相臨床試験を開始しました。
・抗CD20/CD3バイスペシフィック抗体「RG6026」は、3月に血液がんを対象として第Ⅰ相臨床試験を開始しました。
・選択的エストロゲン受容体分解薬「RG6171」は、4月に乳がんを対象として第Ⅰ相臨床試験を、10月に第Ⅲ相国際共同治験を開始しました。
・「SPYK04」は、9月に固形がんを対象として第Ⅰ相臨床試験を開始しました。
・抗HER2/CD3バイスペシフィック抗体「RG6194」は、11月に固形がんを対象として第Ⅰ相国際共同治験を開始しました。
・Raf/MEK阻害剤「CKI27」は、1月に、全世界における製造・開発・販売の独占的実施権を許諾するグローバルライセンス契約をVerastem Oncology社と締結しました。


(ⅱ)骨・関節領域

・「エディロール」は、12月に中国にて骨粗鬆症を適応症として承認を取得しました。


(ⅲ)神経疾患領域

・「エンスプリング」は、6月に視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防を適応症として承認を取得し、8月に発売しました。また、8月に米国にて視神経脊髄炎スペクトラム障害を適応症として承認を取得しました。
・SMN2 スプライシング修飾剤「RG7916」は、10月に脊髄性筋萎縮症を対象として承認申請を行いました。
・パーシャルTAAR1アゴニスト「RG7906」は、2月に統合失調症を対象として第Ⅱ相国際共同治験を開始しました。
・抗ミオスタチンadnectin「RG6206」は、第Ⅱ/Ⅲ相国際共同治験「SPITFIRE試験」の結果に鑑み、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを対象とする開発を中止しました。
・バソプレシン1a 受容体アンタゴニスト「RG7314」は、ロシュ社による複数の海外試験の結果に鑑み、自閉スペクトラム症を対象とする開発を中止しました。


(ⅳ)その他の疾患領域

・抗補体C5リサイクリング抗体「SKY59/RG6107」は、9月に発作性夜間ヘモグロビン尿症を対象として第Ⅲ相国際共同治験を開始しました。
・「アクテムラ」は、5月に新型コロナウイルス肺炎を対象として国内第Ⅲ相臨床試験を開始しました。
・「ヘムライブラ」は、6月に後天性血友病Aを対象として国内第Ⅲ相臨床試験を開始しました。


ご参考 新薬ができるまで

薬の候補化合物の発見から医薬品として発売するまでに9年から17年近くの年月がかかります。



用語解説

※1 バリューベースド・ヘルスケア(VBHC: Value Based Healthcare) 患者さんにとって、真に価値が証明できた医薬品やソリューションだけが選ばれる医療
※2 スイッチ抗体 疾患部位で特異的に高濃度になる分子量の小さな分子の存在下でのみ標的抗原に結合するようにデザインされた抗体
※3 リキッドバイオプシー検査 身体への負担が少ない低侵襲または非侵襲的な遺伝子検査法で、血液や体液を用いて腫瘍に由来する成分を解析する手法の呼称
※4 「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」 腫瘍組織を用いて固形がんの324のがん関連遺伝子の変異状況を1回で測定可能な検査
※5 ロイヤルティ 知的財産権等の利用に対する対価



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2021/03/23 12:00:00 +0900
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