事業の経過および成果ならびに対処すべき課題

【当期のグループ業績】

 JFEグループは、企業理念である「常に世界最高の技術をもって社会に貢献する」ことを通じて、企業としての持続的な成長を図り、株主の皆様をはじめすべてのステークホルダーにとっての企業価値の向上に努めてまいりました。
 当期のわが国経済は、年度前半は緩やかな回復基調で推移したものの、後半は輸出や生産の減少が徐々に顕著になっていきました。海外経済についても、保護主義的な政策による世界的な貿易摩擦等により、特にアジアやヨーロッパの景気は弱い動きとなりました。また、国内・海外とも足元は新型コロナウイルス感染症の影響により、景気は大幅に下押しされ、厳しい状況にあります。
 このような状況のもと、JFEグループでは、第6次中期経営計画の主要施策である最先端技術による成長戦略の推進や、国内における収益基盤整備と製造実力の強化、海外事業の推進と収益拡大および持続的な成長を支える企業体質の強化等に取り組んでまいりました。しかしながら、米中貿易摩擦による製造業を中心とした鉄鋼需要の低迷、中国の粗鋼生産拡大に伴う鉄鉱石価格の高止まり、資材費・物流費等の物価上昇など、これまで経験したことのない極めて厳しい経営環境に直面しており、これにより当期の事業利益は前期に比べ大幅に悪化しました。またこのような経営環境に加え、中長期の需要動向の構造的変化や、国内設備の老朽化により今後多額の更新投資が必要とされる状況を踏まえ、JFEスチール株式会社東日本製鉄所の構造改革に伴う減損損失を計上した結果、親会社の所有者に帰属する当期利益につきましても前期に比べ大幅に悪化し、赤字となりました。

JFEスチール株式会社の業績

 JFEスチール株式会社は、昨年の高炉の操業トラブルからの回復はあったものの、国内外ともに世界経済の減速に伴う需要減の影響や3月を中心とした新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、当期の連結粗鋼生産量は前期に比べ微増の2,809万トンに留まりました。売上収益については、貿易摩擦に伴う販売数量の減少や海外市況の悪化により、2兆6,813億円と前期に比べ減収となりました。損益については、鋼材価格の改善や継続的な収益改善に取り組んだものの、鉄鉱石価格や資材費、物流費等の上昇により、コストが大幅に増加したことに加え、海外市況の悪化や、棚卸資産評価差等の一過性の減益要因もあり、セグメント利益は87億円の損失となり、前期に比べ大幅に悪化しました。

JFEエンジニアリング株式会社の業績

 JFEエンジニアリング株式会社は、国内外の環境・エネルギー・インフラ構築分野での受注済プロジェクトの着実な遂行、および運営型事業の拡大に努めた結果、売上収益は5,122億円となり、前期に比べ増収となりました。損益については、売上収益の増加により、セグメント利益は231億円となり、前期に比べ増益となりました。

JFE商事株式会社の業績

 JFE商事株式会社は、年度中盤より貿易摩擦の影響が米国、中国のみならず世界全体に波及し、各地域の需要が減少したことにより、売上収益は1兆841億円と前期に比べ減収となりました。損益については、売上収益の減少に加え、年度末にかけた鉄鋼市況下落に伴う国内外グループ会社の収益悪化により、セグメント利益は270億円となり、前期に比べ減益となりました。

【当社連結決算の状況】

 持分法適用会社のジャパン マリンユナイテッド株式会社において、天候不順や自然災害等による建造工程の遅延や資機材費の上昇、事業構造改革に伴う損失が計上されたことから、持分法投資損失179億円が発生しました。
 以上の結果、当社単体業績等と合わせ、当期における連結での売上収益は3兆7,297億円、事業利益は378億円となり、前期に比べ減収・減益となりました。また、JFEスチール株式会社東日本製鉄所の構造改革に伴う減損損失の計上等により、税引前損失は2,134億円、親会社の所有者に帰属する当期損失は1,977億円となりました。

【当社単体の業績】

 当社は、事業会社3社より計28億円を経営管理料として受け取りました。また事業会社3社より受取配当金として計483億円を受領いたしました。
 その結果、当期の当社の営業利益は485億円、経常利益は485億円となりました。また、ジャパン マリンユナイテッド株式会社について225億円の関係会社株式評価損を計上したことにより、特別損益は225億円の損失となり、当期純利益は258億円となりました。
 剰余金の配当につきましては、1株当たり20円の中間配当を実施いたしましたが、当期における連結業績の大幅な悪化を受け、期末配当につきましては誠に遺憾ではありますが、見送る方針とさせていただきました。何卒ご了承賜りますようお願い申しあげます。

(注)
  1. 事業利益:税引前利益から金融損益および金額に重要性のある一過性の項目を除いた利益であり、当社連結業績の代表的指標です。
  2. セグメント利益:事業利益に金融損益を含めた、各セグメントの業績の評価指標です。
  3. 当社の単体業績は日本基準を適用しております。

【対処すべき課題】

 JFEグループを取り巻く事業環境は、米中貿易摩擦の影響により海外市況が悪化し、販売数量が減少、鋼材価格も下落する一方で、中国の粗鋼生産拡大等に伴う鉄鉱石価格の高止まりや、資材費・物流費などの物価上昇のため、利益の確保が難しい状況にあります。さらに、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行の影響により各国の経済活動が抑制されるなか、急速な世界経済の減速と国内経済活動への甚大な影響に直面し、これまでに経験したことのない極めて厳しい状況にあります。
 また、中長期的にも、国内市場は人口減少などを背景に需要の減少が見込まれることに加え、海外市場においても新興国における鉄鋼生産能力の拡大、および中国の内需減少に伴う輸出の増加が懸念されるなど、ますます競争が激化すると想定しております。
 こうしたなか、JFEグループは第6次中期経営計画(2018~2020年度)において掲げた施策の実現に向け取り組みを進めておりましたが、計画策定時に想定していなかった事業環境の急激な変化のため、特に鉄鋼事業における目標の達成は困難な状況にあります。足元の厳しい状況に加え、中長期的な鉄鋼需要動向も踏まえ、鉄鋼事業においては競争力のある商品・分野に経営資源を重点的に投入する選択と集中を行うなど、抜本的な対策が必要だと判断し国内の生産体制の再構築を実施いたします。
 新型コロナウイルス感染症拡大の影響については、長期化すれば雇用や所得の悪化に伴う需要の落ち込みがJFEグループの事業活動にも深刻な影響を及ぼす可能性があり、先行きは予断を許さない状況です。引き続き動向を注視し、従業員や関係者の感染防止に十分配慮しながら、それぞれの事業特性に応じた迅速かつ的確な対策を実施してまいります。
 JFEグループは、迅速、果断にあらゆる対策を講じ、一丸となってこの難局を乗り切っていく所存です。


〈各事業会社の取り組み〉

 JFEスチール株式会社においては、「常に新たな価値を創造し、お客様とともに成長するグローバル鉄鋼サプライヤー」を目指してまいります。
 第6次中期経営計画においては、単体での粗鋼3,000万トンの安定生産と3ヵ年で1,050億円規模のコスト削減の実現を目標に、国内製鉄所・製造所の製造基盤整備、製造実力の強靭化に取り組んでまいりました。しかしながら、足元の急激な事業環境の変化および中長期的な国内外の鉄鋼需給バランスを踏まえると、国際市場における競争力の維持・向上のためには、粗鋼生産能力の削減を含む抜本的な構造改革の実行が避けられないと判断し、国内生産体制を再構築し、自動車、インフラ建材、エネルギー等のより競争力のある商品・分野に経営資源を重点的に投入する選択と集中を徹底することといたしました。
 具体的には、2023年度を目途に東日本製鉄所京浜地区の製銑設備、製鋼設備および熱延設備を休止するとともに、東日本製鉄所の薄板生産については一部品種(酸洗・特殊鋼)の生産を除き千葉地区に集約いたします。京浜地区の製銑設備の休止により国内で稼働する高炉は8基から7基となり、粗鋼生産能力は約400万トン減少いたしますが、その一方で、高炉一貫製鉄所の総合的な競争力の向上や各製鉄所・製造所の設備能力最大化を図り、重点分野の販売・品種戦略の推進とあわせて収益拡大の取り組みを実施してまいります。加えて、こうした構造改革の一環として、本社部門を含む全社においても、業務効率化や生産性向上による組織・体制のスリム化を着実に進めてまいります。
 さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大による急激な需要の減少に対応するため、西日本製鉄所倉敷地区の第4高炉については今年4月末に休止し高炉改修工事を前倒しで実施、福山地区の第4高炉についても6月末のバンキング(送風を停止し、再稼働可能な状態で休止すること)実施に向けて準備を開始いたします。2基の高炉の休止による減産で急激な需要の減少に対応する一方で、稼働する高炉を高効率で操業することにより安定生産とコスト削減を図り、現下の状況が収束するまでの期間を乗り切ります。また、減産による設備休止にあわせて従業員の一時休業を実施し雇用の確保にも努めてまいります。同時に、固定費を中心としたコスト削減ならびに在庫圧縮のさらなる徹底や設備投資の厳選等によるキャッシュフロー対策も進めてまいります。
 その上で、中長期的には、国内製造拠点の競争力強化と海外事業での収益拡大を重要な施策と位置付け、企業価値の一層の向上に努めてまいります。
 国内では、基幹製鉄所である西日本製鉄所を中心に競争力強化を図ってまいります。特に需要の伸びが期待される電気自動車等のモーターコアに利用される電磁鋼板につきましては、製造ラインを増強し需要を着実に捕捉してまいります。
 また、重点分野を中心に商品開発やソリューション提供を行い、最先端技術による成長戦略を推進してまいります。例えば、自動車分野においては軽量化やEV化等の技術革新に対応し、ハイテン材を主軸とした技術開発を加速し進化させてまいります。さらに、AI、IoT等の先端IT(データサイエンスやロボティクス等)を導入し、こうした技術開発に対応すると同時に、製鉄所の操業や安全管理など様々な分野でも積極的に活用してまいります。
 海外では、地域や市場毎の長期的な成長トレンドを注視しつつ、これまでグローバルに生産体制を拡充してきた分野を中心に、収益拡大の取り組みをグループ一体で推進いたします。潜在的な成長が期待できるアジア諸国においては、同社が蓄積してきた世界トップの技術力を活用し、提携する海外製鉄会社の企業価値を高めることにより収益拡大を図ってまいります。それら海外事業に関するマネジメントを強化するため「海外事業推進センター」を設置いたしました。

 JFEエンジニアリング株式会社においては、「くらしの礎を創り、くらしの礎を担う」を使命に、人々の生活を支えるエンジニアリング会社を目指してまいります。
 くらしの礎を創るEPC(設計・調達・建設)事業では、国内で培ってきた技術と近年構築したグローバルエンジニアリング体制を最大限に活かし、将来的に成長が期待できる海外での需要を確実に捕捉してまいります。また、EPC事業に加え、O&M(運転・維持管理)やリサイクル・発電事業などの長期にわたりくらしの礎を「担う」運営型事業を拡大、ビジネスモデルとして確立し、市場の環境変化に左右されない安定収益の確保を推進してまいります。加えて、M&Aや他社とのアライアンスの積極的な展開により新たな技術領域やビジネスモデルに挑戦し、獲得した知見をもとに、事業の高度化、差別化や新たな製品・サービスの提供を目指してまいります。
 新型コロナウイルス感染症拡大の状況によっては、プロジェクト遂行や工場の操業へ大きな影響を及ぼす可能性があるほか、新規のプロジェクトにおいても計画中断や発注延期による受注の減少等も想定されます。プロジェクト中断や工期変更等の不測の事態においても、施工体制の柔軟な変更や工事の進捗に合わせた最適な対応を実施するなど、影響の最小化に努めてまいります。このような状況においても、電力・ガス・上下水道・橋梁等のインフラやごみ処理など社会・生活の安定を担う企業としてライフラインの維持・確保に貢献してまいります。

 JFE商事株式会社においては、JFEグループの中核商社として提案力・発信力を高め、お客様と共に持続的に成長する存在感のある企業を目指してまいります。
 新型コロナウイルス感染症拡大と海外の各地域におけるロックダウン等の感染拡大抑止施策により、急激な需要減少による販売数量の減少や商品価格の低下に加え、物流の制約、鋼材加工センターの工場休止や稼働率低下などの影響も懸念されます。引き続き各地域の感染状況や行政、医療、物資調達、航空運航等の状況を確認し、適切かつ迅速な対策を講じてまいります。
 その上で、中長期的には鋼材販売数量の拡大等によりトレード収益を維持・拡大しながら、鋼材加工等による事業収益の拡大を図ってまいります。世界的な規模で自動車の電動化が進むなど市場環境の急激な変化が想定される中、日本、米州、中国、アセアンを主要戦略拠点とする「グローバル4極体制」のマネジメント強化を進め、安定的な収益基盤の構築を目指してまいります。
 国内では、加工・流通拠点の機能強化や、再編等を通じた体質強化を推進し需要を捕捉してまいります。海外では、JFEグループのリソースを最大限活用し鋼材販売数量の拡大に努めるとともに、より最終製品に近い2次・3次加工の機能を強化することに加え、優良なパートナーとの提携による新たなビジネスモデルの構築や活動領域の拡大を図ってまいります。

 また、当社の持分法適用会社であるジャパン マリンユナイテッド株式会社は、国際競争力の強化を目的とした今治造船株式会社との資本業務提携、および営業・設計を協力して行う合弁会社設立を進めることとなりました。当社は、両社の強みを活かした提携効果の最大化および収益改善の取り組みを注視するとともに、必要な施策を実施してまいります。なお、新型コロナウイルス感染症の影響については状況を注視し適切な対応をとってまいります。

 有利子負債(社債、借入金及びリース負債)の残高については、前期に比べ2,905億円増加(新リース会計基準の適用によるリース負債期首増加額1,057億円を含む)し、1兆8,143億円となりました。その結果、当期末のDebt/EBITDA倍率は6.7倍、D/Eレシオは96.4%となりました。財務健全性の維持については最重要課題の一つと位置付けており、棚卸資産圧縮等によるCCC(Cash Conversion Cycle)の改善に加え、保有株式のさらなる縮減等の資産圧縮および設備投資・投融資の優先順位見直し等を行うことで、有利子負債の削減に努めてまいります。なお、当社は複数の金融機関との間でコミットメントラインを設定することにより、資金の流動性を十分に確保しております。

 当社はグループの経営課題を着実に実行していくために、株主利益に適うグループ経営および健全なコーポレートガバナンスの要としてその機能を充実していくとともに、さらに効率的な運営を図ってまいります。

 JFEグループは、社会との信頼関係の基本である、コンプライアンスの徹底、環境課題への取り組み、安全の確立について、グループをあげて真摯な努力を継続してまいります。
 特にESG課題への対応として、統合報告書等による情報開示を継続し、環境・気候変動問題に関連する長期ビジョン・メッセージの発信、シナリオ分析をはじめとする気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示の拡充に加え、重要業績評価指標(KPI)の目標達成に向けた活動を推進することにより、社会的課題の解決に貢献してまいります。
 今後も企業としての持続的成長を図り、株主の皆様をはじめすべてのステークホルダーにとっての企業価値最大化に努めてまいる所存でございますので、株主の皆様におかれましては、JFEグループに対し、なお一層のご理解をいただくとともに、ご指導ご支援を賜りますようお願い申しあげます。

2020/06/19 12:00:00 +0900
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