当連結会計年度の経済及び情報サービス産業における事業環境は以下のとおりです。
国内の経済は、企業収益や業況感が改善しており、設備投資が緩やかに増加するなど、緩やかに改善しています。また、景気の先行きにつきましても、海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響に留意する必要があるものの、雇用・所得環境の改善が続く中で、各種政策の効果もあって、緩やかな改善が続くことが期待されます。
国内の情報サービス産業においては、制度変更や法規制の新規施行への対応、お客様企業におけるエンドユーザー接点の強化や、新サービスによるビジネスの成長を目的としたIT投資が進み、市場は緩やかな改善をみせています。一方、保守・運用コストの削減ニーズ、価格競争の厳しさは依然として続くものとみられています。
海外の経済についても、緩やかに改善しています。また、景気の先行きにつきましても、中国をはじめアジア新興国等の経済の先行き、政策に関する不確実性による影響、金融資本市場の変動の影響等について留意する必要があるものの、緩やかな改善が続くことが期待されます。
海外の情報サービス産業においては、米国市場では緩やかな成長持続が見込まれています。また、欧州市場においては堅調に推移しているものの、マクロ経済の不確実性の高まりに伴うIT投資への影響について注視していく必要があります。なお、中国のIT投資需要は底堅さを維持しており、特にデジタル(注1)関連投資には高い需要が見込まれています。
当社グループはグローバル市場でのビジネス拡大を図り、グローバルのカバレッジ(※)を広げ事業基盤を確立してきました。一方、日本やドイツ、スペイン、イタリアを除き、各国市場ではプレゼンスが低い状況にあります。堅調な拡大を続けるグローバル市場で成長を継続するためには、ローカルプレゼンスを向上し、世界各国のお客様から認知されるグローバルブランドの確立が課題と認識しています。そのため当社グループはグローバルブランドの確立を果たし、連結売上高 2兆円超、国内と海外の売上高比を概ね50:50にすることをGlobal 2nd Stageと定義し、2020年頃の到達をめざしてきました。今般の大型M&Aの効果を踏まえ、各国でのローカルプレゼンスの確実な向上を推進し、2018年度にてGlobal 2nd Stageの到達をめざします。
また、技術の加速度的な進展によるデジタル化の波が到来しており、ITの戦略的活用による事業拡大や新規事業創出に対するニーズが高まっています。このようなニーズに十分対応していくことも課題と認識しています。このため、デジタル化に対応するソリューションの「生産技術の革新」と「最先端技術の活用」を積極的に推進し、新しい市場における価値提供力を強化します。
※2018年3月31日時点においては、53カ国・地域、214都市まで拡大しています。
上記のような課題を踏まえ、当社グループは「2016年度~2018年度:3カ年」の中期経営計画を以下のとおり策定しました。
NTT DATA : ASCEND (Rise and grow our global brand)をキーワードに、NTT DATAグループは、世界各地域での事業成長を追求し、ローカルプレゼンスの向上により、グローバルブランドとしてブランド価値の向上を図ります。
環境変化や技術革新を捉え、既存市場におけるシェア拡大とお客様のニーズを先取りした新規市場創出を行う「リマーケティング」については、前中期経営計画期間において、電力業界への参入、オムニチャネルシステムの構築、デジタルアーカイブ事業の拡大等、着実に成果を上げてきました。
今後も環境変化や技術革新がますます加速している状況を好機と捉え、世界各国の市場環境に則した既存市場におけるシェア拡大と新規市場創出を加速し、ローカルプレゼンスを向上します。また、グローバルでのカバレッジを活かし、シナジーを効かせていくことで、提供ソリューション/サービスの拡充、お客様のグローバルプロジェクトへの当社グループの対応力向上を推進し、各地域における競争力を高めます。
激しい環境変化に直面しているお客様の競争力のコアとなるシステムやサービスを早期かつ柔軟に提供できるよう、これまで開発してきた生産技術とデジタル社会に対応する新しい生産技術を組み合わせた、生産技術の更なる革新を推進します。
また、お客様のITの戦略的活用へのニーズの高まりに応えるため、当社グループの知見や人財、拠点等の研究開発リソースをグローバルに適正配置することにより、デジタル領域の技術力強化を行います。加えて、高い技術力を保有する他社との連携も推進することにより、常に最先端技術を取り入れていきます。これらの取り組みを通じたお客様との共創により、ビジネスへの最先端技術の適用を実現することで、これまでにない新しいしくみや価値を創造していきます。
デジタル社会への変化に向けた新規領域への積極的な投資を行い、リマーケティングの更なる深化と技術革新による価値創造により、Global 2nd Stageの到達をめざして事業成長を追求します。
※対2015年度(調整項目:新規領域への投資増分)
上記の中期経営計画策定後、リマーケティングの更なる深化については、IoT関連等の新規事業への参入、オムニチャネルシステムの構築、バンキング事業の拡大等、着実に成果を上げており、お客様とのLong-term relationshipsの構築を通じて顧客基盤を強化するとともに、安定した経営基盤を確立しています。また、技術革新による価値創造についても、システム開発の高速化・高品質化等「生産技術の革新」に関する研究開発や、新しい技術トレンドを積極的に取り入れる「最先端技術の活用」に取り組むなど、着実に進捗しています。
なお、これまで不採算案件抑制と海外事業の利益改善が重要経営課題でした。不採算案件抑制については、プロジェクト審査委員会等の様々な対策の効果により一定範囲内に抑えられているものの、更なる抑制が必要と認識しています。また、海外における利益改善のため、ニアショア(注2)・オフショア(注3)拠点の活用、よりフレキシブルなデリバリーモデルへの取り組み等を進めているものの、目標としている成果を上げるまでには至ってはいません。したがって、引き続きいずれも重要な経営課題であると認識しています。
なお、グローバル経営の更なる目標として、Global 3rd Stage「信頼されるブランドの浸透」を掲げ、ローカルプレゼンスの拡大、重要顧客の深耕、迅速・適切なグループ全体の事業状況把握を行うこととし、これに向けたグローバルビジネスの推進・管理体制の強化を2017年7月1日に実施しました。
具体的には、グローバル事業本部内の機能であるグローバルアカウント(グローバル顧客企業のサポート)、オファリング(共通ソリューションの提供)等のグローバル横断機能を、コーポレート組織として新設するグローバルマーケティング本部に移管しました。また、中国・APAC事業本部を新設し、グローバル事業本部から中国とAPAC地域のビジネスを移管するとともに、国内の既存3分野(公共・社会基盤分野、金融分野、法人・ソリューション分野)に中国・APAC地域ビジネスを加えた4分野で連携する組織運営を行っています。
これに伴い、報告セグメントを「公共・社会基盤」「金融」「法人・ソリューション」「北米」「EMEA・中南米」に変更しました。
このように、海外ビジネスが拡大し、事業範囲や地理的カバレッジが広がっていることから、グローバルビジネスの推進・管理体制を強化することで、Global 2nd Stageの到達とGlobal 3rd Stageに向けた成長を追求していきます。
お客様のグローバル市場への進出の加速や、ニーズの多様化・高度化に対応するため、グローバル市場でのビジネス拡大を図るとともに、市場の変化に対応した多様なITサービスの拡大と安定的な提供に努めました。
セグメント別の取り組みについては、以下のとおりです。
当連結会計年度末における主な海外拠点の状況は以下のとおりです。
(2018年3月31日現在)
前期における中央府省及びユーティリティ業界向けサービスの反動減等により減収となりました。また、減収及び不採算額の増加等により減益となりました。
政府・インフラ企業の基幹業務のシステム更改を確実に獲得しつつ、これまでの当社グループの実績やそこで培ってきたノウハウを活用した国内・海外での案件の創出、マイナンバーの活用ビジネスやIoT関連等の新規ビジネス、ユーティリティ業界における制度変更(電力・ガスシステム改革)への対応等により事業拡大をめざしました。
● お客様の業務自動化・効率化を強力に支援し、働き方改革の実現に貢献するため、Windows端末のあらゆるアプリケーションの操作を自動化する純国産のRobotic Process Automation(RPA)ソリューション「WinActor」(注1)を800社を超えるお客様へ導入しました。また、操作性の向上・セキュリティの強化等、多様な市場ニーズへのタイムリーな対応を行うとともに、「WinActor」をサーバ上で一元管理・統制する「WinDirector」の提供や、グローバル市場に対して「WinActor」の英語版である「Office Robot」の提供を開始しました。
● 2017年10月、大規模なシステム更改である「第6次NACCS及び第4次CIS」の開発を行い、円滑にサービス開始しました。「第6次NACCS」ではシステムの安定性・信頼性の更なる向上、制度改正対応、官民の総合物流情報プラットフォームとしての機能拡充・利便性向上が実現しました。「第4次CIS」では貿易円滑化の推進・水際取締りの強化を目的とした機能の拡充、システム基盤の統合等による最適化を実現しました。
●「国税電子申告・納税システム」について、2017年6月、9月、2018年1月、3月と4段階で税制改正に向けた対応を着実に実施しました。また、納税者、税務職員等への利便性向上・ユーザビリティ向上に向けた各種機能改善・追加等も併せて実施しました。
銀行及び協同組織金融機関向けビジネスの規模拡大等により増収となりました。また、増収及び一部システムの減価償却費等の減少による原価率の改善に伴い増益となりました。
国内外における決済高度化ニーズの高まり、技術革新・規制緩和を契機とした新規サービスの創発、銀証連携等新たなサービス形態の変化及び大手金融機関の海外進出加速等、お客様の環境変化を背景としたビジネス拡大等による成長をめざしました。
今後のブロックチェーン関連ビジネスの展開に向けて多様なステークホルダーと実証実験を進めました。
● 当社を事務局として、企業や業態を跨いだ課題への対応を検討する「ブロックチェーン技術を活用した貿易情報連携基盤実現に向けたコンソーシアム」(注2)を2017年8月に発足し、銀行・保険・総合物流・輸出入者等の各業界を代表する14社と共に活動しました。
● 当社及び㈱三菱東京UFJ銀行(現 ㈱三菱UFJ銀行)は、シンガポールの貿易プラットフォームであるNational Trade Platform(注3)を推進するNTPプロジェクトオフィスと共に、日本とシンガポールの間でクロスボーダーの貿易文書の電子的交換を実現するための接続実証実験について2017年11月に合意し、開始しました。
● 保険業界におけるブロックチェーン活用への取り組みをサポートすることを目的として、保険業界に特化したブロックチェーン技術検証に関する実証実験環境の無償提供を2018年2月より開始しました。
Fintechを事業機会と捉え、アプリケーションやプラットフォームの提供により、ITによる金融サービスの利便性向上に貢献しました。
● 金融機関とFintech企業が連携する際に必要となる各種API(注4)とAPI管理機能、高い信頼性とセキュリティを有したクラウド基盤である「OpenCanvas」を開発し、クラウド基盤を2017年9月、各種APIとAPI管理機能を2018年3月より提供開始しました。また、オープンイノベーションを創出・推進するビジネス面でのマッチングの場として、OpenCanvasフォーラムを3回開催し、80超の金融機関と25のFintech企業が参加しました。
● 銀行等の金融機関向け次世代バンキングアプリ「My Pallete」を2017年8月に提供開始し、10行に導入しました。また、信用金庫向けのバンキング機能付きスマホアプリ「アプリバンキング」を2017年10月に提供開始し、9金庫に導入しました。これらのサービスにより、お客様はインターネットバンキング未契約でもリアルタイムで口座の残高・取引明細の確認等が可能となりました。
※導入実績は2018年3月末時点の情報を記載
M&A等を含むデジタル関連ビジネス及び製造業向けビジネスの規模拡大等により増収増益となりました。
デジタルを活用する流れの加速や、グローバル競争力強化の要請の高まり等、小売業・流通業・サービス業・製造業における事業環境が大きく変化しています。この変化に対応し、デジタル領域における先進技術・ノウハウや、数多くのお客様のシステムをトータルで支援してきた実績等の強みを活かして、お客様と共に新しい価値を生み出す事業パートナーとしてのビジネス拡大を更に進めました。
● 当社は三菱重工業㈱と提携し、2017年10月に㈱NTTデータMHIシステムズを発足させました。ネットワークサービスやシステムインテグレーション事業について豊富な実績をもつ当社グループの技術力・組織力を活用することにより、三菱重工グループのITインフラ構築・運用・保守や業務系アプリケーション開発等のITサービスの高度化、並びにグローバル対応力強化をより早く効率的に展開していきます。加えて、三菱重工航空エンジン㈱と、企業における分析業務の自動化をAIを活用して実現する、分析オペレーション自動化フレームワーク「AICYCLE」(注5)を用いて、航空エンジンブレード製造工程における不適合品の早期発見と工程改善の実現に向けた実証実験を2016年から2017年にかけて実施しました。
CAFIS(注6)で培ってきた「実績」「多様性」「安全・安心」及び各種ノウハウをコアに、様々な決済関連サービスの提供を推進しました。
● スマホアプリと銀行口座を連動させたスマホ決済サービスについて、2018年度の商用化に向け、2017年9月より複数の実証実験を開始し、クレジットカード未保有でも銀行口座さえあれば簡単にスマホ決済を利用することができ、かつ生体情報を用いた認証によりセキュリティ面も安心して利用することができる決済サービスの可能性を検証しました。
● 訪日外国人を対象としたマーケティング活動と購買促進をサポートする「CAFIS Attendant」の小売事業者向けサービスを2017年9月に提供開始しました。
旧Dell Services部門の譲り受けによる事業拡大及び決算期統一に伴う連結月数の増等により増収となりました。また、営業利益(のれん償却前)は、旧DellServices部門の譲り受けによる利益貢献及び決算期統一に伴う連結月数の増等により増益となりました。
2017年4月に発足したNTT DATA Servicesの新体制の下、旧Dell Services部門のPMI(M&A成立後の統合プロセス)の着実な推進及び北米を中心とした事業の一体化を進めました。特にヘルスケア、公共、金融の各分野においてアウトソーシング等の豊富な実績や知見を活かした事業の拡大を図るとともに、デジタル領域等への対応力を強化し、更なるローカルプレゼンスの向上をめざしました。
● 当社子会社であるNTT DATA Servicesは、2018年1月、米国ジョージア州技術局と、仮想デスクトップ(注7)サービス等を新たに含んだエンドユーザコンピューティング(EUC)(注8)サービスの複数年の更改契約を締結しました。本契約では、これまでジョージア州全域に広がる州政府機関等に対してEUCサービスを一貫して提供してきた実績と信頼に加え、ユーザーに対する更なる付加価値向上のため、急速な技術変化に対応する姿勢が高く評価されました。
● 当社子会社であるNTT DATA Services が開発し、特許出願中の自動化技術の一つである「NTT DATARobotic Context Processor」が、米国の「BTOES18」(注9)において「Best Achievement in OperationalExcellence to Deliver Business Transformation」を受賞しました。対象となった本技術は、自動化AIソリューションとして、病院や保険会社間の契約書等の複雑な文書を、ディープラーニングによる自己学習、光学的文字認識(OCR)や自然言語処理(NLP)等の技術によって理解した上で、契約管理業務を実行する機能を備えており、お客様に経営革新をもたらす本技術の開発成功がNTT DATA Servicesの顕著な成果として評価されました。
一部グループ会社の決算期統一に伴う連結月数の増及びスペイン・ドイツ・中南米におけるビジネスの規模拡大等により増収となりました。また、営業利益(のれん償却前)は、一部グループ会社の決算期統一に伴う連結月数の増により増益となりました。
既存事業の拡大、M&A戦略の推進に加え、特にデジタル等新たな領域でのサービス提供力の強化により、EMEA・中南米におけるローカルプレゼンスの向上を図るとともに、グループ各社がそれぞれのもつ強みやリソースを結集し、シナジーを発揮することで競争力の源をつくり、更なる成長をめざしました。
● 当社子会社であるドイツのitelligence AGは、2018年3月、スウェーデンのEinsvereinte AB(以下、EINS Consulting社)の発行済み株式100%を譲り受け、資本提携することで最終合意しました。EINS Consulting社は、スウェーデン国内でSAP事業を展開しており、特にアナリティクスやCRM関連のコンサルティング、システム構築に強みをもっています。加えて、2017年5月のオランダGoldfish ICTグループ、2017年6月のインドネシア PT. Abyor社、更に2017年9月のインドvCentric社の買収を通じて、今後もSAPへの高い需要が見込まれる各市場における事業拡大、当社グループが保有する顧客基盤及びソリューションを活用したクロスセル等、更なる成長に向けた取り組みを推進しました。
当社グループ内のイノベーションに関するベストプラクティスや研究開発成果の適用可能性の実証に取り組むとともに、日本や米国シリコンバレーの研究センタ等の他地域における研究開発チームとも緊密に連携し、お客様やビジネスパートナーと共に革新的アプローチで新しい技術を試す共同作業拠点を開設しました。
● 当社と当社子会社であるNTT DATA EMEA LTD.は、Innovation Lab「Ensō」(ドイツ)を2017年10月に開設しました。
● 当社子会社であるスペインのeveris Groupは、Industrialization and Digitization CompetencyCenter(チリ)を2017年11月に開設しました。また、2018年1月にGlobal Digital Design Studio「CHAZZ」(スペイン)、2018年2月に「LivingLab」(スペイン)を開設しました。