(1)事業の経過および成果等
当行は、福島県に本店を置き、預金業務、貸出業務、為替業務、公共債・投資信託・保険商品などの販売業務、信託業務などを通じて、コンサルティング機能を発揮し地域の皆さまに幅広い金融商品・サービスを提供しております。
(国内経済)
2024年度の国内経済は好調な企業収益や賃上げの動きを背景に個人消費の持ち直しや設備投資が増加するなど緩やかに回復しました。一方で、欧州や中東における地政学リスク、アメリカの政策動向が景気を下押しするリスクとなっているほか、物価上昇による個人消費への影響や金融資本市場の変動等に注意する必要があり、先行きは依然として不透明な状況が続いております。また、国内の金融情勢においては、日本銀行が賃金・物価上昇の持続性の高まりを受け、2024年7月に15年7ヵ月ぶりに政策金利を引上げた後、2025年1月に追加利上げを実施するなど、金融機関を取巻く環境に大きな変化がありました。
(福島県内経済)
当行の主要な営業基盤である福島県の経済は、住宅投資や新車登録台数が前年を下回るなど個人消費は足踏みの状況にありましたが、雇用情勢が緩やかに持ち直すとともに、新規事業や新規出店に関する設備投資が増加するなど一部に回復の兆しが見られました。
(金融環境)
長期金利の指標となる10年国債利回りは、日本銀行の政策金利引上げや国債買入減額を要因として2025年3月に16年ぶりの高水準となる1.59%まで上昇しました。また、為替相場は2024年7月に1ドル161円台まで円安が進行しましたが、日米金利差が縮小したことを受け、年度末には1ドル148円台まで円高が進みました。一方で、日経平均株価は好調な企業収益などを背景に、2024年7月に史上最高値となる4万2,224円まで上昇したものの、米国における通商政策への警戒感により年度末には3万5,617円まで下落しました。
このような金融経済環境のなか、当行はパーパス「すべてを地域のために」のもと、ビジョン「地域社会に貢献する会社へ~金融サービスの枠を超えて~」の実現に向け、2024年4月から2030年3月までの6年間を計画期間とする長期経営計画「TX PLAN 2030」を策定しました。2つの基本方針である「地域・お客さまとの価値共創」および「当行グループの成長戦略」に基づき、地域社会の持続的成長に向けた諸施策を展開しております。
基本方針Ⅰ. 地域・お客さまとの価値共創
(法人コンサルティング)
「お客さま1社1社の事業価値向上」を目指すべきゴールに掲げ、事業を営むお客さまに対しては、お客さまが抱える様々な課題やニーズにお応えするコンサルティングサービスを提供しております。コロナ禍が収束し、資金繰り支援から本業支援へとシフトするなか円滑な資金対応を行った結果、事業性貸出金は前年度比1,178億円増加し1兆7,749億円となり、残高ピークを更新しました。
地域社会の持続的成長には新たな事業やイノベーションの創出が不可欠であるという考えのもと、創業支援に積極的に取り組んでおります。福島県との共同事業である新事業創出支援事業「ふくしまイノベーションプログラム」(注1)を実施したほか、創業期の事業を営むお客さまを総合的にご支援する「とうほう起業家応援パッケージ」を創設しました。加えて、福島の将来を担うスタートアップ企業のチャレンジを後押しし、地域経済の活性化・地方創生に貢献するため、東邦リース株式会社およびスパークル株式会社を共同運営会社とした「TOHOネクストステージファンド」を設立しました。
また、サステナビリティ宣言に掲げた「脱炭素・ネイチャーポジティブ」に基づき、福島県全体のカーボンニュートラルに向けた取り組みを牽引するとともに、お客さまの脱炭素化を支援するため、「知る」「測る」「減らす・発信する」の3つのステップをワンストップで提供する「とうほう脱炭素経営支援サービス」を2025年3月に開始しました。さらには、福島県特有の地域課題解決に向け、寄贈先(テーマ)を限定した「とうほうテーマ別私募債」(注2)を創設し、只見線およびJヴィレッジの利活用充実による地域活性化を支援したほか、2025年4月1日からサステナビリティ定期預金「つながる未来」(注3)の取扱いを開始するなど、地域社会の持続的成長に向けた取り組みを進めております。
(個人コンサルティング)
「お客さま一人ひとりのゆたかな暮らしづくり」を目指すべきゴールとして掲げ、個人のお客さまに対しては、中長期的な資産形成、資産運用、資産承継等の幅広いニーズにお応えする高度な金融サービスを提供しております。
2024年7月に野村證券株式会社と金融商品仲介業務における包括的業務提携の最終契約を締結し、「お客さま一人ひとりに最高の金融サービスを」を提携スローガンとして、2025年1月に預かり資産特化型拠点として「コンサルティングプラザ」を福島県内4か所に開設しました。10月には新たに「コンサルティングブランチ」を2カ所追加し、県内計6カ所での運営を予定しております。
東邦銀行の行員と野村證券からの出向者がお客さまのライフステージに応じた質の高いコンサルティング・付加価値の高い総合金融サービスを提供し、お客さまの豊かな生活・健全な資産形成の実現に取り組んだ結果、当行グループ全体での預かり資産残高は177億円増加し、6,709億円となりました。また、野村證券との金融商品仲介業務における包括的業務提携をふまえた預かり資産残高は1兆516億円となりました。
また、地域の金融リテラシー向上への取り組みとして、子育て世代のお客さまを対象とした「託児サービス付き資産形成セミナー」や、ふくしまの未来を担う高校生を対象とした「エコノミクス甲子園」福島大会、小・中・高校生向けの「金融経済教室」、遺言信託に関するセミナー開催など、幅広い世代の金融教育に取り組みました。
基本方針Ⅱ. 当行グループの成長戦略
(当行の企業価値向上)
「サステナブル経営」
脱炭素社会への移行や新たな産業・社会構造への転換を促すため、2024年度からサステナブルファイナンスの対象を環境分野から社会分野まで拡大し、長期経営計画期間の累計目標を1兆円から1.5兆円に引き上げております。加えて、2024年6月に「とうほうサステナブル投融資方針」を制定し、地域社会の持続可能な発展に資する投融資として「とうほうポジティブ・インパクト・ファイナンス」や「フレームワーク型サステナブルファイナンス」の取扱いを開始するなど、お客さまの脱炭素化や社会課題解決を積極的に支援した結果、2024年度末のサステナブルファイナンス実績は、5,206億円となりました。
「アライアンス戦略」
当行の企業価値向上に向け、地銀10行による広域且つ大規模な連携である「TSUBASAアライアンス」の知見を最大限に活用しております。2024年1月に移行した「TSUBASA基幹系システム共同化」のメリットを最大限に享受しながら、各種サービスの開発を加速させ、CX向上に資するサービスの提供に努めております。2024年11月より個人向けスマートフォンアプリ「東邦銀行アプリ」の提供を開始し、日常的な銀行取引を簡単にご利用いただけるサービスとして、多くのお客さまにご評価いただいた結果、契約数は3月末で6万件を超えました。
(営業体制・組織体制)
TXPLAN2030における営業体制変革の実現に向け、2025年4月より福島市南部エリアの営業店(注4)においてエリア営業体制を開始しております。エリア内におけるお客さまの利便性向上と営業効率化を図るため、「Web面談システム」と「来店予約サービス」を導入するとともに、2026年度には個人の口座開設や諸届に対応する「店頭タブレット」の稼働を予定しております。また、当行の生産性向上や業務効率化を目的に2025年3月より生成AIサービスを導入し、行内の資料作成や文書要約等、様々な場面で活用しております。引き続きより良い商品・サービスの充実に努め、地域・お客さまのニーズにお応えする最適な金融サービスを提供してまいります。
(注4)南福島支店、蓬莱支店、福島医大病院支店
(人的資本の充実)
当行は、「人的資本」を成長戦略の土台となる最も重要な経営資本と位置付け、人材への投資こそが将来的な銀行の成長や地域の持続的な成長を支える人材の創出に繋がるとの考えから、人事制度見直しによる従業員1人ひとりが能力を最大限に発揮することができる環境整備やベースアップによる処遇向上等、人的資本投資に積極的に取り組んでおります。2024年度はパートタイマーの時給引き上げやベテラン層の活躍促進に向けた処遇向上など、全従業員に対する処遇改善に取り組み、最大11.6%程度、平均7.7%の賃上げを実施しました。加えて、当行の将来を担う人材を積極的且つ安定的に確保していく観点から、2025年4月入行の大学卒の初任給を260,000円に引き上げ、若手層のモチベーションならびに成長意欲の向上を図っております。
また、DE&I推進を人的資本経営の重要な戦略のひとつと考えており、2024年度は昇格時に育児や介護による休職が影響しないよう、人事制度を見直しました。男性従業員の育児休暇取得率が137.5%となったほか、アンコンシャスバイアスや育児に関連するセミナーを開催するなど、男性従業員の意識醸成と育児参画を強く推し進めております。こうした取り組みを踏まえ、2029年度末までに30%を目標に掲げる女性役席者比率は、前年度末比2.3%上昇し26.3%となりました。引き続き地域における少子化対策についても当行が率先して取り組んでいくとともに、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けてしっかりとサポートしてまいります。
こうした取り組みの結果、2024年度の業容・業績は以下のとおりとなりました。
[預金、譲渡性預金等]
預金につきましては、個人預金・法人預金・公金預金が減少したことにより、前年度末比611億円減少し、5兆7,709億円となり、譲渡性預金を含む総預金については、前年度末比1,404億円減少し、6兆1,670億円となりました。
投資信託や公共債等の預かり資産は、公共債が増加した他、野村證券株式会社との包括的業務提携(2025年1月20日)に伴う「新仲介口座」残高を計上し、前年度末比4,069億円増加し9,051億円となり、総預金と預かり資産を合計した総預かり資産は7兆722億円となりました。
[貸出金]
貸出金につきましては、県内および東京における事業性貸出が増加したことを主因に、前年度末比1,197億円増加し4兆540億円となりました。
[有価証券]
有価証券につきましては、安定的な利息配当金確保のため、残存期間が短い円建債券を中心に残高を積み上げ、前年度末比3,298億円増加し1兆2,075億円となりました。
[損益]
本業の利益となるコア業務純益は、基幹系システム移行に伴う減価償却費の増加等により経費が増加しましたが、日本銀行の金融政策変更を主因とした資金利益の増加により前年度比25億円増加し112億円となりました。
経常利益は、コア業務純益の増加に加え、与信関係費用の減少により前年度比29億円増加し108億円となりました。
上記の結果、当期純利益は前年度比22億円増加し76億円となりました。
また、連結の経常利益は111億円、親会社株主に帰属する当期純利益は74億円となりました。
2024年12月、白河支店・白河西支店・白河市役所支店(白河市)を新築移転しました。新店舗は当行初のZEB(=Net Zero Energy Building)仕様店舗であります。今後の店舗新築についても、カーボンニュートラル社会の実現に向け環境面に配慮するとともに、お客さまの利便性向上により一層取り組んでまいります。
2024年度の外部環境としては、国内経済は全体として緩やかに持ち直しの動きが続いているものの、地域において事業を営むお客さまにおいては、人口減少に伴う恒常的な人材不足や物価・資源高に加え、米国による通商政策の影響など不透明な経営環境が続いております。
(地域・お客さまとの価値共創)
TXPLAN2030において、地域経済の持続的成長を達成するための「10TARGETS」を設定し、各種施策に取り組んでおります。そのなかでも、人口減少、少子高齢化が地域社会に及ぼす影響は時間の経過と共に益々深刻化していることから、TARGET①「人材不足への対応」を解決すべき重要な社会課題の一つと捉えております。
2024年度の同分野に関する当行グループへの相談件数は累計で1,400件を超え、今も着実に増加しております。その環境下、ITの力で地域全体のデジタル化とお客さまの生産性向上支援に取り組むIT関連事業と、人材不足という地域にとって最大の課題解決に取り組む人材関連事業を2本柱とする「株式会社東邦ITヒューマンソリューションズ」を新設し、他業銀行業高度化等会社の認可を取得したうえで2025年10月より事業を開始する予定です。
また、地域経済の活性化に欠かせない中小企業の本業支援においては、コロナ資金の返済や人件費上昇など経営環境が厳しいなか、倒産件数が増加している環境を踏まえ、金融仲介機能をさらに強化するとともに、経営計画の策定支援や販路拡大を支援する有料ビジネスマッチングの取り組みや生産性向上に向けた伴走型経営支援の取り組みを強化しております。
東日本大震災から14年が経過するなか、相双地域においては、科学技術力と産業競争力の強化を目的として福島国際研究教育機構(F-REI)が設立され、帰還者や移住者が共存できる環境が整備されるなど、復興が着実に進んでおります。その環境下、当行は、相双地域を起点とした福島県の創造的復興を大きな課題と捉え、2024年1月にF-REIとの包括的連携協定を締結したほか、2024年4月には法人コンサルティング部内に「相双新産業推進室」を設置するなど、相双地域から県内外の企業・自治体とのマッチングや、新たな産業創出に向けた創業・スタートアップ、進出企業へのご支援を積極的に行っております。このような取り組みの結果、2024年度の創業支援件数は800件を超えました。引き続き「創業の地 ふくしま」の確立に向け積極的に取り組んでまいります。
(当行グループの成長戦略)
TXPLAN2030では、2026年度計画としてコア業務純益115億円、当期純利益60億円、ROE3.0%、コアOHR77.0%、2029年度計画としてコア業務純益185億円、当期純利益110億円、ROE5.0%、コアOHR67.0%を掲げておりましたが、日本銀行による2024年7月および2025年1月の政策金利引上げに加え、今後もさらなる金利上昇局面が想定されることを踏まえ、長期計数計画の見直しを実施しました。
金利環境の変化を追い風として、TXPLAN2030に掲げる各種施策を着実に遂行し、貸出金の増加やコンサルティング分野における非金利収入拡大によるトップライン増強を図りつつ、業務効率化のための行内DX促進や営業体制変革によって生産性向上を図ることで、ROE・PBRの改善に取り組み、経営体質をさらに強化してまいります。また、企業価値を向上させる3本柱として、成長・環境投資、人的資本投資、株主還元を掲げており、お客さまのさらなる利便性向上を目指すための積極的な成長投資を継続するとともに、さらなる人的資本投資を行い地域の持続的成長に貢献できる人材の創出、育成に努めることに加え、株主還元をより一層充実させることで、当行グループの企業価値向上を実現してまいります。