当社グループ(企業集団)の現況に関する事項

(1)事業の経過及びその成果

 当連結会計年度における我が国経済は、変異株の出現により新型コロナウイルス感染症の影響が長期化する一方、ワクチン接種や行動制限緩和など、社会・経済活動の正常化に向けた取り組みが進捗し、力強さを欠きながらも持ち直す動きが見られました。
 不動産業におきましては、オフィスビル市場は、テレワークの普及などに伴い平均空室率の上昇や賃料水準の下落が続く一方、コミュニケーションの場として、またウェルビーイングの充実などの観点から、よりグレードの高いオフィスを求める動きも見られました。不動産投資市場では、金融緩和による良好な資金調達環境が維持されたことから、投資家の物件取得意欲は引き続き旺盛で、厳しい競争が継続いたしました。また分譲住宅市場は、低金利政策が継続するなか、2020年度にコロナ禍による販売活動への制約から供給が減少した反動もあって新築物件の販売が堅調であったほか、中古マンションの売買取引も活況を呈しました。
 一方、都市部の商業施設やホテル・リゾート関連市場では、行動制限の緩和により集客は徐々に回復しつつあるものの、長距離移動や人混みのリスクを避ける傾向は続いており、依然として厳しい状況となっております。
 当社グループは、2030年を見据えたグループの長期ビジョン「GROUP VISION 2030」及びこれに基づく長期経営方針を2021年5月に公表し、その初年度となる当期は、コロナ前の業績へのV字回復を目指して事業を推進してまいりました。あわせて、本方針の前半期にあたる2025年度までの中期経営計画の策定にも注力いたしました。
 また、本方針では、長期視点であらゆる事業を見直すとともに、経営の羅針盤となる考え方を明確にすることで、強固で独自性のある事業ポートフォリオを構築し、サステナブルな成長の実現と株主価値・企業価値の向上を図っていくこととしております。
 その一環として当社は、2022年3月31日付で、子会社である㈱東急ハンズの発行済株式の全部を㈱カインズに譲渡いたしました。㈱東急ハンズは、高い知名度を活かして当社グループのブランド価値向上に長年に亘り貢献してきましたが、業績面では、小売業の事業環境が激変するなかで伸び悩んだ状態が続いてまいりました。同社が、今後も多くのハンズファンや従業員の皆さまのご期待に応えながら成長を遂げていくためには、価値観を共有し、また小売業に豊富なノウハウを有する他の事業者に同社を託すことが最適解と考え、本件譲渡の決断に至ったものであります。
 当社では、事業ポートフォリオの見直しは持続的な成長と企業価値の向上に不可欠との認識のもと、今後もお客さまをはじめステークホルダーの皆さまにとって最善な形を追求しながら着実に推進してまいります。
 以上の取り組みの結果、当連結会計年度は、売上高は9,890億49百万円(前期比9.0%増)、営業利益は838億17百万円(前期比48.3%増)、経常利益は728億34百万円(前期比56.4%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は351億33百万円(前期比62.1%増)となり、目指していたV字回復を実現することができました。

 次に各事業についてご報告申しあげます。

(ご参考)事業セグメントの変更について
 当社は第9期より、人財と資産活用の観点から事業を分け、社会的役割の親和性が高い事業領域ごとにセグメントを再編いたしました。

【資産活用型ビジネス】
循環型再投資の拡大等により、資金や知的資産を効率的に活かしながら、さらなる成長を目指してまいります。

【人財活用型ビジネス】
DXを取り入れ、生産性と付加価値を高めることで成長につなげてまいります。
 
これら4つの事業セグメントが、それぞれのミッションに取り組むことで、グループの成長戦略を推進いたします。

事業セグメントの位置づけ
人財と資産活用の観点から事業を分け、社会的役割の親和性が高い事業領域に区分してセグメントを管理する。


 都市開発事業では、当社グループの強みを活かし、デジタル時代、個の時代における魅力あるライフスタイルの実現への貢献に取り組むとともに、環境・サステナビリティへの対応を一層加速してまいりました。
 東急不動産㈱におきましては、オフィス事業では、賃貸事業基盤の拡充に向けて再開発を推進するとともに、テナントさまのニーズの多様化に対応したサービス拡充に取り組んでまいりました。

 登録有形文化財を保存復原し、さらに一部を空間として活用しながら、現代建築と融合させ建替えを進めている「九段会館テラス」(東京都千代田区)において、2021年12月に保存棟である旧九段会館部分の保存・復原工事が完了いたしました。リーシング活動も順調に進捗しており、本年度の開業を目指し推進してまいります。
 サービス拡充では、働き方の多様化や健康経営への関心の高まり、環境・サステナビリティなどオフィスを取り巻く事業環境やニーズの変化を踏まえ、「ワークプレイス」「環境」「健康経営」「ライフスタイル」の4つの施策・サービスをワンストップでご提供するトータルソリューション「GREEN WORK STYLE 未来の自分をつくる働き方」のご提供を開始いたしました。当社グループは、通常のオフィスのほか、シェアオフィスやリゾート地でのワーケーションなど、多彩なワークプレイスを展開しているほか、健康支援サービス・ヘルスケアの分野でも豊富なノウハウを有しております。また環境対応では、東急不動産㈱が単独で保有するオフィスビル・商業施設におけるテナントさま使用分を含めた消費電力全てを、同社の発電所等が供給する再生可能エネルギー由来の電力へ2022年に切り替えることを決定したほか、今後の新築ビルを原則としてZEB水準化することを目標に掲げるなど、先駆的に取り組んでまいりました。これらの、当社グループならではの幅広い事業ウイングを活かし、単なる“働く場所”ではなく、“未来の自分をつくる働き方”をご提供していくことで、持続可能な成長、生産性の向上、創造力の発揮、働きがいの追求に貢献し、テナントさまの企業価値向上とワーカーのウェルビーイングの実現を目指してまいります。
 次に住宅事業では、引き続き需要が堅調な複合再開発物件や投資家向け賃貸住宅などの開発に注力いたしました。また、長期ビジョンを踏まえ、「社会課題を、暮らし心地に変えていく」という行動指針のもと、住宅事業を通じて“誰もが自分らしく、いきいきと輝ける未来の実現”を目指していくことを打ち出しました。
 具体的な取り組みとしては、2030年度までに、全ての新築分譲マンションでZEHを標準仕様としてまいります。また、分譲マンションブランド「BRANZ(ブランズ)」のリブランディングでは、ブランドスローガン「環境先進を、住まいから。」を掲げ、持続可能な心地よい暮らしと環境貢献を実現するため新たな発想や仕組みを積極的に取り入れ、“環境先進マンション”のご提供を進めていくことを決定し、取り組みを開始しております。
 当期は、「ブランズタワー豊洲」(東京都江東区)、「ブランズタワー芝浦」(東京都港区)等を売上に計上いたしました。
 また、東急不動産㈱が開発し、㈱学生情報センターが運営する学生レジデンス「CAMPUS VILLAGE(キャンパスヴィレッジ)」では、2022年2月から3月に掛けて、首都圏で4物件、関西圏では大阪府内の食事付き学生レジデンスとしては最大の規模を誇る「キャンパスヴィレッジ大阪近大前」(大阪府東大阪市)など5物件が竣工し、それぞれ入居を開始しております。
 以上の結果、都市開発事業の売上高は3,258億13百万円(前期比2.9%増)、営業利益は519億32百万円(前期比24.5%増)となりました。
※ZEB:ネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略称で、先進的技術の採用による大幅な省エネ化、再エネ導入により、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した建築物をいう。
※ZEH:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称。省エネと発電によるエネルギー創出を総合し、年間の一次エネルギー消費量の収支ゼロを目指す住宅をいう。


 戦略投資事業では、再生可能エネルギー事業において東急不動産㈱は、「脱炭素化社会の実現」「地域との共生と相互発展」「日本のエネルギー自給率の向上」の3つの社会課題の解決を掲げ、「ReENE(リエネ)」のブランド名で、各地で太陽光・風力・バイオマスといった再生可能エネルギー発電所の開発を進めております。その定格容量は、開発中の案件を含め約1.3GW(一般家庭約62.6万世帯に相当)に成長してまいりました。
 2021年6月には、志を同じくする他の事業者さまと共同で、再生可能エネルギーの地域導入を普及促進し、地域と再生可能エネルギーが相互に発展していくことを目指す「(一社)再生可能エネルギー地域活性協会(FOURE)」を設立いたしました。また、9月には、さらなる事業拡大に向けて新会社「㈱リエネ」を設立し、専門人材・ノウハウの蓄積や電力システム改革、需要家の皆さまとの連携など周辺事業への取り組み拡大を目指してまいります。
 当期は、2022年3月に「リエネ六ヶ所村千歳風力発電所」(青森県上北郡六ヶ所村)が稼働いたしました。また、2022年4月には「米子バイオマス発電所」(鳥取県米子市)が営業運転を開始しており、引き続き事業規模拡大に注力してまいります。
 物流施設では、東急不動産㈱は、「LOGI’Q(ロジック)」のブランド名で各地に施設を展開しております。当期は、2022年2月に、関東最大規模となる「LOGI’Q狭山日高」(埼玉県狭山市)が大手EC企業の専用物流倉庫として竣工いたしました。
 また、海外事業では、米国での賃貸住宅バリューアッド事業やタイでのオフィスビル開発事業など、米国及びアジアにおける事業規模拡大に引き続き取り組んでまいりました。
 以上の結果、戦略投資事業の売上高は669億55百万円(前期比42.7%増)、営業利益は147億38百万円(前期比22.0%増)となりました。

 管理運営事業において、総合不動産管理を展開する㈱東急コミュニティーは、最良な状態で資産価値を高めつつ建物を維持していく「ライフタイムマネジメント」を掲げ、良質な社会的ストックの形成への貢献に努めてまいりました。マンション管理では、建物老朽化やお客さまニーズの多様化に対して、築年数にあわせたハード・ソフト両面からのソリューション提案や、デジタル活用によるサービスの拡充を図っております。またビル管理では、スマートフォンによるAI点検・報告アプリや清掃ロボットの活用など業務の標準化・効率化を推進しながら、オーナーの目線で寄り添うパートナーとして建物の収益向上に貢献するソリューションビルマネジメントを目指してまいりました。
 当期は、大阪府豊中市における市役所、学校、図書館など149の公共施設の包括施設管理や、商業施設・劇場を付帯する大型複合ビル「電通本社ビル」(東京都港区)等の管理を開始いたしました。

 なお同社は、変化し続けるお客さまのニーズや課題に対応したソリューション型ビジネスへの変革を推進するため、2021年10月に子会社のコミュニティワン㈱を統合いたしました。統合後のスケールメリットを活かし、経営資源の集約やDX推進による新商品・サービスの開発を一層加速することで、マンション管理業のさらなる成長を目指してまいります。
 ホテル・リゾート事業及びヘルスケア事業では、東急不動産㈱は、引き続きホテル、フィットネスクラブ、シニア住宅など各施設の安心・安全な運営に注力するとともに、コロナ後を見据えた新たな事業モデルの開発や事業ポートフォリオの変革にも取り組んでまいりました。
 新型コロナウイルスの影響が長期化するなかで、会員制リゾートホテル「東急ハーヴェストクラブ」やゴルフ場などの会員権販売は好調に推移した一方、各運営施設への集客の回復ペースは緩やかなものとなりました。
 新規施設では、2021年8月に都市型ホテル「東急ステイ新宿イーストサイド」(東京都新宿区)を、また9月にはヒルトンのラグジュアリーブランド「LXRホテルズ&リゾーツ」のアジア太平洋地域初のホテルとなる「ROKUKYOTO(ロク キョウト),LXR Hotels & Resorts」(京都市)を開業しております。
 環境緑化事業では、都市緑化及び造園事業に取り組む㈱石勝エクステリアが、造園工事等の積極的な営業に取り組み、事業拡大を図ってまいりました。
 管理運営事業の売上高は3,837億55百万円(前期比9.3%増)、99百万円の営業損失となりました。


 不動産流通事業において、仲介事業では、東急リバブル㈱は、3つの業界No.1戦略(お客様評価、事業競争力、働きがい)及び3つの業界変革戦略(情報の付加価値化、オペレーションの効率化、環境対応力の強化)に基づき、収益拡大の基盤づくりに邁進いたしました。サービスの向上では、査定担当者と同等水準の査定価格を算出できる「マンション価格査定AI」の開発、不動産投資家向けには長年の経験とAI技術を融合した「PROPERTISTA(プロパティスタ)」による売却・購入のサポートを開始いたしました。また、不動産売買契約における電子署名の導入準備を進めるなど、AI等の活用による利便性向上と業務効率化を目指してまいりました。
 賃貸住宅サービス事業では、東急住宅リース㈱は、新規物件の受託拡大を推進することでストックの拡大と生産性向上による利益成長を中長期的に実現するため、競争力強化、DX推進、従業員の働きがい向上の3点に重点的に取り組んでまいりました。当期は「Belle Vue(ベルビュー) 千代田飯田橋」(東京都千代田区)、「びわ湖美空団地」(滋賀県大津市)などの管理を開始しており、管理受託戸数が引き続き増加しております。
 また、㈱学生情報センターでは、コロナ禍において、お問い合わせから契約手続きまでオンラインでの対応を可能としておりますが、当期はチャットによるご相談対応やコールセンターの機能強化など、さらなるユーザビリティー向上に努めてまいりました。
 以上の結果、不動産流通事業の売上高は2,345億19百万円(前期比10.5%増)、営業利益は261億30百万円(前期比38.3%増)となりました。



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2022/06/28 12:00:00 +0900
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