対処すべき課題

印刷産業は、電子媒体普及の影響を受け、出版関係を中心に伸び悩んでいるものの、日本・欧米を中心に高付加価値印刷やパッケージ印刷の需要は堅調です。また、新興国では中華圏が低迷から脱しつつあり、インド・アセアン諸国などでは人口増や中間所得層拡大に伴い印刷需要は伸びております。

このような事業環境の中、当社の経営は、オフセット印刷機事業の収益基盤をより強固にするとともに、各新規事業の拡大と営業の業態等の「変革」が必要となりました。このため2016年4月からスタートした第5次中期経営計画にて、「事業構造変革」を推進し「営業の業態変革」と「モノづくり革新」等を通して「収益構造変革」を実行しております。(第5次中期経営計画の詳細はP.32-33をご参照ください)

第5次中期経営計画の当連結会計年度を含む最初の2年間で、事業構造変革での成果としては、証券印刷機事業では、米国の民間紙幣印刷会社であるCrane社を含む世界各国からの大型受注に成功したこと、DPS事業では新型デジタル印刷機「Impremia IS29」の量産販売を国内外で開始したことがあげられます。また、PE事業では電子部品業界での当社のプレゼンスを高める一方で、高精細技術を基に半導体などの製造技術の商用化をめざし各種のアライアンスを組むなど着実な事業拡大を実施したこと等、事業の複合化を進めました。次に、営業の業態変革では、PESP事業として、ポストプレス商品・消耗品などの印刷関連商品および予防保守サービスなどを拡充するとともに、将来の印刷会社でのIoTを目指した「KP-Connect(KP-コネクト)」(KOMORIソリューションクラウド)の国内販売を開始し、お客様の生産性と収益性の向上に資する総合的なソリューション提案を可能とする体制を整えています。

当中期経営計画の最終年となる次期連結会計年度は売上高1,010億円、営業利益31億円を予想しております。中国・インドでの需要の回復やDPS事業・PESP事業の着実な拡大を想定して

おり、前期比で増収となりますが、品目別売上構成の違いや、為替レートが前期比で円高を想定していることなどから若干の減益となる見込みです。一方、第5次中期経営計画で設定した目標とする経営指標(2019年3月期の売上高1,400億円、営業利益125億円)には届かない見込みです。

中期経営計画の目標とする経営指標から乖離している主な要因は次のとおりです。

第一に、事業構造変革を推進する一方でオフセット印刷機事業の基盤強化に努めてまいりましたが、同事業が想定どおり伸びなかったことであります。特に潜在需要の大きい中国とインド向けの販売が目標を大きく下回りました。中国市場は力強い需要が戻りつつあるものの過去2年間の急速な経済の成長鈍化により印刷機需要の低迷が長期化しました。インド市場は高額紙幣の廃止や新税制導入の混乱に伴い経済が混迷し、機械販売が停滞しました。

第二は、事業構造変革の柱であるDPS事業の収益化が遅れ、経営指標への寄与が未だ小さいことです。デジタル印刷機「Impremia IS29」と「Impremia NS40」の市場投入が遅延したこと、同機のビジネスモデルに合致した新しい市場開拓に時間を要したことなどが背景にあります。他方、本格的な当社のデジタル印刷機は、市場から大きな評価を得ることが出来ましたので、今後着実な成果が期待できます。

この他、自律的成長に加えM&Aによる業容拡大を想定しましたが、新規事業での戦略的アライアンスや海外代理店の子会社化などを進めたものの、現時点では収益に大きなインパクトを与えるM&Aが実行されていないことも要因の一つとなっています。

当社は、第5次中期経営計画を通して成長の基本路線は確実なものにしましたが、さらにオフセット印刷機事業の収益基盤の強化と新規事業の拡大により、収益力を早期に高めることが最重要課題と捉えております。第5次中期経営計画の最終年度の次期連結会計年度は、事業計画の遅れを改善すべく課題への取り組みを強化し「変革」を推し進めてまいります。

オフセット印刷機事業では、自動化・省力化を追求した高付加価値機やパッケージユーザー向け新製品を拡販してまいります。また、アジアの重要市場を中心に販売・サービス体制の強化に取り組んでまいります。DPS事業・PESP事業では海外を含む一層の業容拡大とストックビジネス指向により収益性の改善と安定的収益源の確保を目指してまいります。また、ICTを利用した業務効率の改善や販売管理費の削減を進める一方、3工場体制におけるモノづくり革新活動においては、多品種変量生産に対応した効率の良い生産体制を構築し、生産リードタイム短縮と製造コスト低減を図ってまいります。これらのビジネスモデルの革新や新たな事業に備えるため、柔軟かつ適切な人員の配置や採用を行いながら、グローバル人材・マネジメント人材の育成・強化も計画的に進めてまいります。

また、財務戦略の一環として、前連結会計年度に自己株式の買入れと消却を実行しましたが、株主への利益還元を最重要政策と位置づけながら、引き続き資産・資本効率向上を意識した財務リソースの戦略的活用を推進してまいります。

さらに、環境対策として「グリーンプロジェクト」を立ち上げ、2030年までの長期エコビジョンを定めております。これを具体化すべく、環境にやさしい「製品開発を推進するエコプロダクツ」「企業活動を推進するエココミュニケーション」「生産設備のエコファクトリー」の「3つのエコ」についてそれぞれの中長期目標を設定し活動してまいりました。その中期目標として2020年までにCO2排出量のマイナス30%(2010年比)の達成を目指しております。この活動の成果として、日本経済新聞社による環境対策と経営効率の向上の両立に取り組む企業を評価する「環境経営度調査」の企業ランキングで、2016年の145位から2017年は93位と順位を上げました。

これらの課題に経営資源を重点的に投入し、全社一丸となって取り組むことで、持続的安定成長を実現する経営基盤を構築し、企業価値向上を図ってまいります。

株主の皆様におかれましては、今後とも一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。

2018/06/20 12:00:00 +0900
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