対処すべき課題

① 経営方針・経営戦略等

 当社グループは、「人間尊重」と「三つの喜び」(買う喜び、売る喜び、創る喜び)を基本理念としています。「人間尊重」とは、自立した個性を尊重しあい、平等な関係に立ち、信頼し、持てる力を尽くすことで、共に喜びをわかちあうという理念であり、「三つの喜び」とは、この「人間尊重」に基づき、お客様の喜びを源として、企業活動に関わりをもつすべての人々と、共に喜びを実現していくという信念であります。
 こうした基本理念に基づき、「わたしたちは、地球的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために、質の高い商品を適正な価格で供給することに全力を尽くす」という社是を実践し、株主の皆様をはじめとするすべての人々と喜びを分かち合い、企業価値の向上に努めていきます。
 当社グループは、世の中に「存在を期待される企業」であり続けるため、「すべての人に、“生活の可能性が拡がる喜び”を提供する」ことを2030年ビジョンとして掲げ、企業活動を行っています。年間3,000万人規模へ製品を供給する世界一のパワーユニットメーカーとして「環境」と「安全」に徹底的に取り組むとともに、新たな価値創造として、複合型ソリューションや新領域へのチャレンジに全社一丸となって取り組んでいます。また、こうした事業ポートフォリオの変革に向けた投入資源を生み出すためにも、さらなる事業体質の強化を図っていきます。


② 経営環境

 当社グループを取り巻く経営環境は、大きな転換期を迎えています。価値観の多様化や、高齢化の進展、都市化の加速、気候変動の深刻化、さらに電動化、自動運転化、IoTといった技術の進化による産業構造の変化が、グローバルレベルで進んでいます。新型コロナウイルス感染症の影響により、日々の生活環境や慣習は大きく変化し、また、世界の分断が加速し、地政学的リスクも顕在化しています。さらには、企業活動に関わるすべてのステークホルダーと、長期的な社会課題を解決するための、積極的な関係構築も求められています。将来の成長に向けては、提供価値の質の向上に取り組むことが不可欠です。
 四輪事業では、コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化といった技術革新によって、100年に一度といわれる大変革期に直面しています。安心で自由な移動という普遍的な価値に加え、統合化されたサービスやカスタマイズによる新たな体験が求められています。また、世界的に環境規制の一層の強化が進む中、自動車業界においてはEV(電気自動車)事業拡大に伴い、資源の争奪競争が激しくなることが想定されます。このような不透明な環境下においても「電動化」や「安全への取り組み」を確実に進めるために、「事業体質の強化」に取り組んでいきます。
 二輪事業は、世界的に環境規制の強化が進む中、先進国に続き、一部の新興国でも電動化の政府目標が発信され、変化の兆しが出てきています。このような事業環境変化や地域特性の中でも、多面的・多元的なアプローチに取り組み、カーボンニュートラルの実現をめざします。また、安全については、車両単体の安全技術適用のみならず、インフラとの連携や安全運転普及活動にもさらに力を入れて取り組んでいきます。
 パワープロダクツ事業及びその他の事業は、労働人口の減少や作業者の高齢化により、「もっと安全に」「もっと簡単に」使える作業機の進化が求められています。当社グループは作業機と同時に、センサーや知能化などの技術を進化させるために、プロや熟練作業者のノウハウを収集・データ化し、作業機と連携させて、作業の質を向上させていきます。また、脱炭素へ向けては、エンジンからバッテリーへの単純な置き換えだけでなく、お客様にとって何がベストかを考えながら、さまざまな可能性にアプローチしていきます。

③ 優先的に対処すべき課題

 経営環境を踏まえ、当社グループが持続的な成長を続け、気候変動をはじめとしたさまざまな社会の課題解決に貢献するために、当社グループならではの価値提供の実現に向け、以下の課題に取り組んでいきます。

1 地球環境負荷ゼロ

 当社グループは2050年に、製品だけでなく企業活動を含めたライフサイクルでの環境負荷ゼロをめざします。その柱となるのが、「カーボンニュートラル」「クリーンエネルギー」「リソースサーキュレーション」の3つです。
 (Triple Action to ZERO)

a.カーボンニュートラルの取り組み
 四輪事業はカーボンフリーを達成するため、「先進国全体でのEV、FCV(燃料電池自動車)の販売比率を2030年に40%、2035年には80%」、そして「2040年には、グローバルで100%」をめざします。
 この実現に向けては、市場変化に合わせたラインアップ展開とバッテリーの安定調達が重要な課題です。
 ラインアップ展開においては、EV普及の拡大期にある、現在から2020年代後半にかけて、主要市場となる北米・中国・日本など、地域ごとの市場特性に合わせた商品投入を進めていきます。


 また、EVの普及期に入っていると推察される2020年代後半以降は、「各地域ベスト」から進化し、「グローバル視点でベスト」なEVを展開していきます。2030年までに軽商用からフラッグシップクラスまで、グローバルで年間200万台を超える生産を計画しています。
 バッテリーの安定調達に向けては、現在から2020年代後半までは外部パートナーシップの強化により、液体リチウムイオン電池の安定的な調達量の確保をめざします。

 2020年代後半には、EV拡大期に合わせ、次世代電池技術の独自開発にチャレンジしていきます。株式会社GSユアサとの協力関係においては、10年にわたり協業を進めてきたハイブリッド用電池の次のステージとして、高容量・高出力なEV用リチウムイオンバッテリーの開発に着手し、展開を進めていきます。また、半固体電池では、SES AI コーポレーションへの出資を通じた共同開発を進めると共に、全固体電池は独自開発に向けた研究を進め、2024年には実証ラインを立上げ、より一層取り組みを加速していきます。
 これらの調達や開発の領域に加え、長期的視点では、資源確保からリソースサーキュレーションを含めた、新たなバリューチェーンの構築に取り組んでいきます。重要鉱物の確保において阪和興業株式会社とPOSCOホールディングス、リサイクルの観点からは、アセンド・エレメンツやサーバ・ソリューションズとパートナーシップを締結しています。
 バッテリー領域においては、各領域における戦略的パートナーシップにより、「当社グループをハブとした、強固なバリューチェーンを構築」し、各パートナーとの共存共栄を図ることで、サステナブルな事業基盤の構築と、競争力の強化を図っていきます。
 二輪事業においては、2050年カーボンニュートラルの達成をめざして、製品領域における電動製品の販売比率目標値を段階的に設定し、取り組みを加速します。具体的には2026年までに100万台、2030年には販売構成比の約15%にあたる年間350万台レベルの電動車販売を目標に掲げ、ICE(内燃機関)の進化と電動化で2040年代にカーボンフリー製品100%をめざします。
 二輪車は販売の中心が新興国であり、エネルギー需給、雇用、生活の利便性など各国・地域の社会ニーズが複雑なため、二輪車の利便性とカーボンニュートラルのバランスをとることが課題と考えています。電動車の展開に加えて、ICE車の大幅な燃費改善技術など、多面的・多元的なアプローチでカーボンニュートラルに取り組んでいきます。
 電動車においては、各市場の特性に合わせ、電動商品をカテゴリーごとに展開していきます。

※EM:Electric Moped(電動モペッド)、最高速度25km/h~50km/h のカテゴリー。
EB:Electric Bicycle(電動自転車)、最高速度25km/h以下のカテゴリー。電動アシスト自転車は含まない。

 2025年までに、コミューターとFUNモデルをあわせて合計10モデル以上の新規電動車の投入を計画しています。
 ICE車においては、燃費向上の取り組みとして、熱効率向上や低フリクション技術によるエンジン単体の燃費向上技術のほかに、車両トータルでの燃費を向上させる技術を開発しています。さらに地域特性を考慮して、ガソリンにエタノールなどを混合したカーボンニュートラル燃料対応技術にも取り組んでいきます。
 パワープロダクツ事業においては、先進国をターゲットに電動製品を投入し、プレゼンスの確立をめざします。高いプレゼンスを持っているエンジン歩行芝刈機などの完成機においても、電動化を進め、エンジン製品と変わらない強みをお客様に提供していきます。また、エンジン販売で高シェアを有する建設業界の法人様をターゲットに、電動パワーユニットの販売とその搭載支援を提供することで、小型建機メーカー様の電動化を後押ししていきます。電動商品の展開においては、従来通りの販売・アフターサービスだけでなく、法人様の業務効率改善、投資抑制を図ることで、事業運営への貢献をめざします。

b.クリーンエネルギーの取り組み
 「エネルギー問題」への対応として、これまでのエネルギーのリスクを減らす取り組みを超えて、企業活動および製品使用において使用されるエネルギーをすべてクリーンなエネルギーにすることをめざします。企業活動における再生可能エネルギーの活用において、地域社会のCO₂低減に直接的に貢献できる方法を優先して採用していきます。具体的には新たに再生エネルギーを活用した発電設備を設置することに重点を置き、自社敷地内への設置から検討を始め、順次敷地外まで範囲を広げて活用拡大に取り組んでいます。

c.リソースサーキュレーションの取り組み
 「資源の効率利用」への対応として、バッテリーのリユースやリサイクルをはじめとした、マテリアル・リサイクルに関する研究を進めます。これまでの資源と廃棄におけるリスクを減らす取り組みを超えて、環境負荷のない持続可能な資源を使用した製品開発に挑戦します。

2 交通事故死者ゼロ

 当社グループは、2050年に全世界で当社グループの二輪車・四輪車が関与する交通事故死者ゼロをめざします。また、マイルストーンとして2030年に全世界で当社グループの二輪車・四輪車が関与する交通事故死者半減をめざします。

 交通事故死者ゼロの実現に向けては、先進安全技術の展開と開発の強化に加え、交通安全の教育活動やインフラ、政策への働きかけなどが課題であると考え、先進国、新興国で取り組んでいきます。

a.先進国の交通事故ゼロに向けた対応
 先進国においては2030年までに、全方位安全運転支援システム「Honda SENSING 360」や、歩行者保護・衝突性能の強化・先進事故自動通報(歩行者事故を含む)などの死亡事故シーンを100%カバーする技術を、四輪車全機種へ適用することをめざします。

b.新興国の事故死者ゼロに向けた対応
 新興国においては2030年までに、二輪車・四輪車双方への安全技術をすべての機種へ展開するとともに、すべての人に安全教育の機会を提供することをめざします。二輪車の安全技術については、先進ブレーキ、視認性・被視認性を備えた灯火器を、より多くの二輪車に搭載していきます。また、二輪車と四輪車の双方を担う当社グループの特長を活かした共存技術である、二輪検知機能付きHonda SENSINGを、2021年の「VEZEL」以降の四輪車の新型モデルに順次投入していきます。

c.全世界の交通事故死者ゼロに向けた対応
 一人ひとりの能力や状態に合わせ、運転ミスやリスクを減らし安全・安心な運転へと誘導できる世界初のAI活用による「知能化運転支援技術」と、すべての交通参加者である人とモビリティが通信でつながることで、事故が起きる手前でリスクの予兆・回避をサポートする「安全・安心ネットワーク技術」により、当社グループが目標に掲げる「2050年に全世界で当社グループの二輪車・四輪車が関与する交通事故死者ゼロ」の実現をめざします。

3 新たな価値創造

a.複合型ソリューションの提供
 当社グループは、製品単体にとどまらずさまざまな製品が連鎖し、領域を超えてつながることで、より大きな価値を提供することをめざします。そのためには、電動モビリティやその他製品を「端末」と位置付け、各製品 に蓄えられたエネルギーや情報を、ユーザーや社会とつなげる技術と枠組みの構築が課題と考えています。
 当社グループは、クロスドメインでのコネクテッドプラットフォーム構築に取り組み、価値を創出していきます。バッテリーをはじめとした電動領域、そしてソフトウェア、コネクテッド領域については、今後開発を加速するために、外部からの採用強化も含め、開発能力の強化を図っていきます。

b.新領域のチャレンジ
 当社グループの研究開発子会社である株式会社本田技術研究所は、環境負荷ゼロ社会と事故のない社会の実現に向けた先行技術の研究に加え、モビリティの可能性を三次元、四次元に拡大していくために、空、海洋、宇宙、そしてロボットなどの研究を進めています。具体的なテーマとして、「Honda eVTOL」「Hondaアバターロボット」「宇宙領域へのチャレンジ」に取り組んでおり、燃焼・電動・制御・ロボティクス技術といった当社グループが培ってきたコア技術を活用することで、新領域においても人々の生活の可能性を拡げる喜びの実現にチャレンジしていきます。

4 財務戦略
 当社グループは、資源の適切な配分を通じて、事業ポートフォリオの変革を加速させ、企業価値向上の実現をめざします。

 この実現に向けては、「事業体質の強化」「新たな価値創造を加速する資源投入」「資本効率の向上」が課題と考えています。

a.事業体質の強化
 当社グループは、「事業ポートフォリオの変革」の実現のために、「事業体質の強化」に全社一丸となって取り組んでいます。
 四輪事業は、プラットフォームのレイアウト統合や部品共用化などを実現するHondaアーキテクチャーの導入や生産能力の適正化、グローバルモデルの派生削減などを進めています。二輪事業では、カテゴリー・排気量・車格をまたいだ仕様・部品の共通化に取り組んでいます。これらの取り組みの結果、収益体質は確実に改善してきています。
 新型コロナウイルス感染症の影響や地政学的リスクの顕在化など、依然として先行きが不透明な事業環境ではあるものの、これまで構築した体質をさらに強化することで、2025年度においては、ROS(売上高営業利益率)7%以上の達成を見込んでいます。

b.新たな価値創造を加速する資源投入
 
当社グループは、「事業ポートフォリオの変革」に向けた資源投入として、2021年度からの10年間で約8兆円の研究開発費を計画しています。その主な投入先は、「電動化・ソフトウェア領域」に約3.5兆円、「新たな成長の仕込み」に約1兆円となります。電動化・ソフトウェア領域については、EV専用工場の建設など、2021年度からの10年間で約1.5兆円の投資を現時点で計画しており、研究開発費と合わせて総額約5兆円を資源投入していきます。

c.資本効率の向上
 
事業ポートフォリオの変革を支えるリソースマネジメントのため、ROIC(投下資本利益率)を活用し、資本コストを意識した経営を強化します。事業別には、事業構造に応じた最適な管理指標を活用し、資本コストを上回るリターンの持続的な創出に努めます。二輪・四輪・パワープロダクツ事業などの、金融を除く事業領域では、ROICにより、変革実行のための原資創出を財務管理の面からリードします。ROICの分子である利益を最大化するとともに、保有する資産の徹底的な活用や必要投資の見極めを通じて分母の投下資本を最適化することで、資本効率を高め、変革を支える原資創出の最大化をめざします。
 なお、成果の配分については、株主の皆様に対する利益還元を、経営の最重要課題の一つとして位置付けており、長期的な視点に立ち将来成長に向けた内部留保資金や連結業績などを考慮しながら決定していきます。配当は、連結配当性向30%を目安に安定的・継続的に行うよう努めていきます。また、資本効率の向上および機動的な資本政策の実施などを目的として自己株式の取得も適宜実施していきます。

 以上のような企業活動全体を通した取り組みを行い、株主、投資家、お客様をはじめ、広く社会から「存在を期待される企業」となることをめざしていく所存でございます。


「ネットで招集」には、事業報告の要旨を掲載しております。
事業報告・計算書類等の全文につきましては、「招集通知」からご参照ください。

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2023/06/21 12:00:00 +0900
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