事業の経過及びその成果

 当連結会計年度の世界経済は、米国の通商政策や各国経済の低迷により総じて減速基調で推移し、当期末にかけて新型コロナウイルス感染症(COVID-19。以下、「感染症」という)の世界的な感染拡大で減速傾向がさらに強まりました。米国では、中国との通商問題の緩和や個人消費の増加等から景気は緩やかな回復基調にありましたが、感染症の影響により下振れのリスクが高まりました。欧州では、独国の製造業の落ち込みや英国のEU離脱問題を巡る混乱に加えて、感染症の影響から景気は急速に減速しました。中国では、感染症の影響で経済活動が大幅に縮小し、景気は顕著に減速しました。
 わが国経済は、雇用・所得の環境改善が続いていましたが、感染症の影響により大幅に落ち込みを見せ、先行き不透明な状況が続いております。

 当社グループの海運業を取り巻く市況は、オイルタンカーや大型ガスキャリアでは堅調に推移しました。しかしながら、ドライバルクキャリアでは感染症の影響もあり、当期末にかけて不透明感が強まりました。このような状況の下、当社グループでは、既存契約の有利更改への取り組みをはじめとして、効率配船及び運航採算の向上を図りました。不動産業においては、一部事務所テナントの移転に伴い空室が生じていた飯野ビルディングで、新規テナントの入居が開始される等、収益は改善に向かいました。

 以上の結果、売上高は891億79百万円(前期比5.1%増)となりました。外航海運業においては増益になったものの、内航・近海海運業及び不動産業においては減益となったため、営業利益は39億76百万円(前期比16.8%減)、経常利益は34億55百万円(前期比26.5%減)となりました。また、売船市場の動向を見極め老齢船の処分を行い、固定資産売却益(特別利益)を計上したこと等から親会社株主に帰属する当期純利益は37億88百万円(前期比19.1%減)となりました。

(報告セグメント別売上高及び構成比)

(注)

△は減少を表示しています。

各セグメント別の状況

 外航海運業 
売上高  683億91百万円
営業利益  6億51百万円

  オイルタンカー
<一般概況>
 オイルタンカー市況は、当期初においては製油所の定期修繕に伴う需要の落ち込み等の影響で低迷していましたが、夏場以降、サウジアラビア石油施設への攻撃による被災及び米国によるイラン産原油の輸送に従事した中国船社への制裁等により高騰しました。冬場にかけても、需要期入りやSOx規制対応に伴う船腹供給の引き締まり等から市況は高い水準で推移しました。当期末には感染症の影響で原油需要低下により一時市況は落ち込んだものの、OPECプラスの協調減産体制の決裂、サウジアラビアの増産への方針変更及び原油価格急落による洋上備蓄需要が高まったこと等から市況は再び高騰しました。

<当社の取り組み>
 このような事業環境の下、当社グループのオイルタンカーにおいては、支配船腹を引き続き長期契約に投入しておりましたが、第1四半期中に入渠船があった影響等から損益は悪化しました。また、当期末には当社初のSOxスクラバーを搭載したVLCCが竣工しました。

  ケミカルタンカー
<一般概況>
 ケミカルタンカー市況は、中東域での地政学的リスクや世界経済の減速の影響等により低調に推移していましたが、秋口よりオイルタンカー市況の上昇やSOx規制対応の為の燃料油の切り替えに伴う燃料コスト上昇に引きずられる形で市況も上昇した影響等により回復基調となりました。しかしながら、当期末には感染症の影響等により荷動きが減少し、市況は若干弱含みました。

<当社の取り組み>
 このような事業環境の下、当社グループのケミカルタンカーにおいては、当社の基幹航路である中東域から欧州向け及びアジア向けの数量輸送契約に加え、北アフリカからの燐酸液やスポット貨物を積極的に取り込むことにより稼働の維持に努めました。当社と米国オペレーターとの合弁事業においても、既存船から燃費の良い船への代替を進め、数量輸送契約やスポット貨物の集荷により効率的な配船に努めました。また、サステナビリティへの取り組みとして、従来の重油のみならず、メタノールを推進燃料とすることが可能な当社初の2元燃料主機関搭載船が竣工し、長期契約に投入されました。

  大型ガスキャリア
<一般概況>
 大型ガスキャリアのうち、LPGキャリア市況は、夏場以降、米国からアジア向け裁定取引の活発化や、季節的要因による滞船等により船腹需給が引き締まったこと等から上昇しました。当期末にかけ輸送需要の減速により市況が弱含む場面はあったものの、燃料費下落の影響もあり、市況は概ね好調に推移しました。LNGキャリア市況は、一部軟調な局面があったものの、夏場及び冬場のエネルギー需要期に例年通り輸送需要が見られ、概ね堅調に推移しました。

<当社の取り組み>
 このような事業環境の下、当社グループの大型ガスキャリアにおいては、LPGキャリア及びLNGキャリア共に既存の中長期契約へ継続投入することで安定収益を確保したことに加え、LPGキャリアの一部が好市況を享受しました。

  ドライバルクキャリア
<一般概況>
 ドライバルクキャリア市況は、貿易摩擦やブラジルの鉱山ダム事故等の影響が前年から継続し、軟調な幕開けとなりました。夏場から秋口にかけては、南米出し鉄鉱石や穀物の荷動きが増加し、一旦市況は好転しましたが、SOx規制発効を前に冬場以降から再び下落しました。更にはアジアでの旧正月による減速に加え、感染症の影響による経済活動の縮小もあり、市況が低迷する中で当期末を迎えました。

<当社の取り組み>
 このような事業環境の下、ドライバルクキャリアにおいては、石炭専用船とチップ専用船については順調に稼働しました。ポストパナマックス船については、市況上昇のタイミングを捉えた配船や数量輸送契約に投入し採算改善に努め、ハンディ船については、短期貸船により市況エクスポージャーの低減も図りつつ、契約貨物を中心に効率配船に努めました。その結果、ポストパナマックス船及びハンディ船では運航採算は市況と比較し堅調に推移しましたが、市況悪化の影響を完全に避けることはできませんでした。

 以上の結果、外航海運業の売上高は683億91百万円(前期比5.4%増)、営業利益は6億51百万円(前期比11.8%増)となりました。

 内航・近海海運業 
売上高   92億44百万円
営業利益    5億70百万円

  内航ガス
<一般概況>
 内航ガス輸送の市況は、夏場のLPG不需要期及び暖冬の影響で出荷は低調に推移したものの、製油所間転送需要は底堅く、堅調に推移しました。石油化学ガスもプラントの定期修繕及び設備検査等に伴い出荷は低調に推移しましたが、業界全体として修繕期間中の洋上ストレージ需要及び船員不足に伴う稼働隻数の減少も影響し、船腹需給は均衡して推移しました。

<当社の取り組み>
 このような事業環境の下、当社グループの内航ガス輸送においては、LPGの季節的要因による輸送量減少と石油化学ガス出荷プラントの定期修繕及び設備検査等による出荷量減少の影響を受けましたが、中長期契約に基づく安定的な売上確保と効率配船の実施により、採算の維持に努めました。しかしながら、当期に入渠工事が重なった影響により減益となりました。

  近海ガス
<一般概況>
 近海ガス輸送の市況は、主要貨物であるプロピレン、塩化ビニルモノマーの国内生産量がプラントの定期修繕等に伴い低調であったため、軟調に推移しました。また、5,000㎥型高圧ガス船において余剰が生じたため、当社が主力とする3,500㎥型高圧ガス船の市況も軟化しました。

<当社の取り組み>
 このような事業環境の下、当社グループの近海ガス輸送においては、東南アジアの荷動きが軟調で市況下落の影響はありましたが、定期用船契約を締結していることで、安定した貸船料収入を維持することができました。

 以上の結果、内航・近海海運業の売上高は92億44百万円(前期比1.9%減)、営業利益は5億70百万円(前期比38.5%減)となりました。

 不動産業 
売上高    116億67百万円
営業利益  27億55百万円

  不動産賃貸
<一般概況>
 都心のオフィスビル賃貸市況は、企業の人員拡大等への対応に伴うオフィス拡張、統合移転需要により、新築及び築年数の経過していない大規模ビルを中心に入居スペースの減少が進み、既存ビルを含めた全体の空室率は低下したこと等から上昇傾向で推移しました。

<当社の取り組み>
 このような事業環境の下、賃貸ビルにおいては、飯野ビルディングで一部事務所テナントの移転に伴い空室が生じましたが、その後の好調なオフィスビル賃貸市況を反映し、新規テナントの誘致に成功しました。一方、この移転時にLED照明の入替工事などを実施し、設備更新費用も増加したこと等から、同ビルは総じて減益となりました。その他の各所有ビルにおいては順調な稼働を維持しました。また、新橋田村町地区市街地再開発事業では、新築建物の鉄骨建方工事に着手しており、現在のところ2021年6月末の竣工を予定しています。

  不動産関連事業
<一般概況>
 貸ホール・貸会議室においては、多数の競合施設がある中、厳しい顧客獲得競争が続きました。
 不動産関連事業のフォトスタジオ事業においては、広告需要が引き続き堅調に推移しました。

<当社の取り組み>
 このような事業環境の下、当社グループのイイノホール&カンファレンスセンターにおいては、催事の積極的な誘致と映像設備の更新により高稼働を維持していましたが、当期末において、感染症の影響による催事自粛要請により稼働に著しい影響を受けました。
 フォトスタジオ事業を運営する㈱イイノ・メディアプロにおいては、主力のスタジオ部門の稼働が堅調に推移し、安定した収益を確保しました。
 また、当社は次世代ビジネスへの取組みの一環として、連結子会社を2020年1月に設立の上、2020年3月に英国ロンドンのオフィスビルを取得しました。
 なお、当該物件の連結計算書類への反映は第130期連結会計年度からとなりますので、当連結会計年度の連結計算書類には含まれておりません。

 以上の結果、不動産業の売上高は116億67百万円(前期比9.4%増)、営業利益は27億55百万円(前期比15.8%減)となりました。

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2020/06/25 12:00:00 +0900
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