事業の経過およびその成果

 当連結会計年度における世界経済は、英国のEU離脱投票や米国の大統領選挙などの予想外の結果による影響を受けながらもいずれの地域も雇用情勢は総じて安定しており、資源需要の回復に伴う資源国経済の回復や主要産業のサイクル循環も上向き、景気回復局面が持続しました。我が国経済は中国・アジア向けの輸出が増加し、また企業の好業績を背景にした株高や個人消費も底堅く推移し景況感が改善しました。

 このような世界経済環境の中、印刷産業は、ICT(情報通信技術)の普及に伴い、紙媒体による印刷需要が低迷しており、先進国では印刷需要が一旦下げ止まったものの、当連結会計年度では減少傾向が引き続き見られました。新興国では、人口の増加や中間所得層の拡大に伴い、景気変動の影響を受けながらも引き続き印刷需要は伸びています。印刷機械市場の需要動向は、欧州では昨年5月にドイツで開催された展示会の販促効果もあり、需要は堅調に推移しました。米国では大統領選挙後の更新需要が期待されていましたが、新政策見極めのためオフセット印刷設備投資への慎重な姿勢に目立った変化はありませんでした。中国市場は景気減速が底を打ったものの、ファイナンス審査は依然厳格であり、印刷機械への需要は低迷しました。アセアンなどのアジア市場は紙幣印刷機の需要が好調で、順調に売上を伸ばしました。一方、日本市場では前連結会計年度にあった省エネルギー設備導入補助金による設備投資拡大の反動により需要の減少が見られました。

 このような市場環境において、当連結会計年度は第5次中期経営計画(2016/4~2019/3)の初年度として、事業の複合化を目指す「事業構造変革」と、ソリューションビジネスにより営業領域の拡大を目指す「営業の業態変革」という2つの「変革」の完遂に向けて大きく前進した1年となりました。

 「事業構造変革」では、海外向け証券印刷機事業、DPS(デジタル印刷機)事業、およびPE(プリンテッドエレクトロニクス)事業を推進し、事業構造の転換を進めてまいりました。海外証券印刷機事業ではつくば工場において証印商談会「Currency Solution」を開催し各国の中央銀行や民間紙幣印刷会社へ当社の技術をアピールしました。また、インド、インドネシア、および民間の紙幣印刷会社(米国)向け紙幣印刷生産ラインの受注に成功するなど大きな成果を上げることが出来ました。また、DPS事業ではデジタル印刷機インプレミア IS29のパイロットユーザーの評価を終えて各地域での内覧会を実施し、昨年12月より日本・米国・欧州・中国のユーザーへの納入を開始しております。PE事業では昨年6月に国際電子回路産業展(東京ビッグサイト)を初めとする国内の各種展示会や内覧会において電子部品業界などのお客様を対象にR to R スクリーン印刷機、縦型両面スクリーン印刷機などを出展し、また各種消耗資材、製版などの商品提案を行い拡販に努めました。

 「営業の業態変革」では、昨年5月にドイツで開催された展示会「drupa2016」においてハード商品群とソフト商品群を出展し、“つなぐ”をテーマにオフセット印刷機とデジタル印刷機の組み合わせによる生産の提案や、さらには後加工機をつなげた多彩な実演を通して、ビジネスの広がりの可能性を訴求しました。IoT技術で印刷工場とKOMORIをつなぎ、印刷会社の課題を「見える化」する「KOMORI ICTソリューションズ」の紹介や、KOMORIが推奨するインキ・消耗品等の印刷資材で印刷会社に安心感と安定感をもたらす「K-サプライ商品」の提案など、オフセット印刷機械メーカーならではのプリントエンジニアリングサービスプロバイダー(PESP)としての企業姿勢をアピールしました。

 以上の結果、当連結会計年度における受注高は896億2千万円(前期比2.3%減)となり、売上高は866億1千8百万円(前期比9.1%減)となりました。費用面では、円高の進行等による売上原価率の上昇などが減益要因となりました。その結果、営業利益は17億1千2百万円(前期比74.1%減)となりました。営業外損益は、前期に一過性の営業外収益として受取遅延損害金2億4千2百万円の計上があったことなどにより当期は収支が悪化し、当期の経常利益は14億3千万円(前期比78.0%減)となりました。一方、特別損益では、固定資産の減損損失として、前期に1億8千2百万円を計上しましたが、当期は5億5千3百万円を計上しており、税金等調整前当期純損益は、8億2千4百万円の利益(前期比86.9%減)となりました。また、親会社株主に帰属する当期純損益は、前期は米国販売子会社における繰延税金資産計上による税負担の軽減がありましたが、当期はこのような事象はなく6億5千7百万円の利益(前期比89.9%減)となりました。

 また、海外売上高は522億3千5百万円(前期比5.1%減)で、売上高に占める割合は60.3%となりました。

企業集団の部門別売上高の状況

 当連結会計年度の特記すべき事項は次のとおりであります。

 第一は、新規事業のDPS事業で高品質・安定性を実現した印刷会社向けのB2対応デジタル印刷機インプレミア IS29の一般販売を開始したことです。インプレミア IS29はオフセット印刷に迫る安定した高印刷品質を実現し、さらにオフセット用紙に対応できる幅広い用紙適性と紙厚適性、即乾・両面同時印刷および瞬時の後加工が可能であり、高い評価を得ております。

 第二は、新規事業のPESP事業で印刷会社の生産性向上を支援する情報共有プラットフォームであるKP-コネクト(KOMORIソリューションクラウド)の提供を開始したことです。印刷機械稼働状況の「見える化」を図り保守点検サービスのK-サポートと組み合わせることにより、稼働率の向上と効率的なメンテナンスの実現が可能になりました。また、印刷前工程、印刷工程、印刷後工程を統合管理する機能を利用することにより、印刷ワークフローの最適化が図れるようになりました。

 第三は、中核事業であるオフセット印刷機事業でリスロン GX44RP(四六全判両面オフセット枚葉印刷機)の開発が完了しました。両面印刷での「高品質化・短縮化・高速化・安定化」を徹底追求し、雑誌・書籍などの出版関連や両面のパッケージ印刷において高品質で高い生産性を実現しました。