対処すべき課題

 当社グループは、当期をスタートとする平成33年3月期までの5ヵ年の中期経営計画に取組んでおります。

小売事業では、引き続きSC・定借化をすすめ、平成31年3月期までに可能な区画すべてを定借化することにより、収益の改善をはかってまいります。このことにより、店舗のカテゴリー構成も従来のアパレル中心から飲食やサービス、雑貨を中心とした構成に大きく変化させ、「モノ消費からコト消費へ」という長期的なトレンドに対応できる店づくりを着実にすすめております。この様な新しい店づくりのモデル店舗として昨年4月に開店した博多マルイは、計画を上回る客数で入店客数は有楽町マルイと同規模となりました。

 オムニチャネルにつきましては、当社の強みである店舗・カード・Webを重ね合わせた独自のビジネスモデルとして取組んでまいります。具体的には、婦人靴の体験ストアとして、試着用のサンプルのみを売場に陳列し、お客様に自由にお試しいただくという「体験」の部分に特化したショップを展開してまいります。お客様自身が店頭のタブレット端末でご注文いただき、商品を自宅に無料で配送いたします。お客様にWeb会員登録をしていただき、またWebで決済するためにカード入会していただくことで、店舗での販売による利益とWeb登録による生涯収益、カード入会による生涯収益の三つの利益が得られるビジネスモデルとなっております。当期からスタートしたアニメ事業のビジネスモデルも体験ストアと同様の店舗・カード・Webの三位一体型になっており、今後は、モノ・コトを問わず、自社で手掛ける事業につきましては、店舗・カード・Webの三位一体による企業価値連動型のビジネスに特化していく予定です。また、eコマースにおいては、今年の2月よりKDDIさまと協業し、ネット通販サイト「Wowma!for au」のブランドファッション売場を運営することで収益の拡大をはかるとともに、3800万人のauのお客様との接点を持つことによる当社の顧客拡大をめざしてまいります。

 SC・定借化とオムニチャネルを推進することで、定借化不可店舗の不振等のマイナスを挽回し、平成33年3月期の営業利益は当初計画の180億円以上の達成をめざしてまいります。

 フィンテック事業は、エポスカードの発行を開始した平成19年3月期以降、取扱高が年率17%で伸び、高成長を実現しております。当期は、新規カード会員が博多マルイの開店により前期を上回りましたが、新規の商業施設の開業の遅れや提携先企業の経営環境の変化等により提携カードが苦戦し、当初計画に届きませんでした。今後は、eコマースやサービス、コンテンツ関連など、成長性の高い分野での企業提携をすすめ、また、グループのノウハウと人材が活かせる商業施設との提携を全国に拡大することにより、挽回をはかってまいります。

 当期のフィンテック事業の営業利益は当初計画を上回りましたが、今後のキャッシングや貸倒費用などの動向を保守的にみて、平成33年3月期の営業利益は計画どおり400億円以上を見込んでおります。

■長期の環境変化と新たな成長に向けた取組み

 当社は、今後10年間の経営を考える上で、7つの長期トレンドを重視しております。「EC化」「モノ消費からコト消費へ」「シェアリングエコノミーの台頭」「少子高齢化」「インバウンド需要の拡大」「キャッシュレス化」「貯蓄から投資へ」の7つです。これらの長期トレンドが、今後当社にどの様な機会と脅威をもたらすかについての検証、およびその対応について、以下のように考えております。

 小売事業につきましては、検証の前提として、モノを中心に実店舗で販売する百貨店型の小売業態を今後継続した場合、機会は少なく脅威の多い10年間になると予想しております。唯一の機会とみられるのは「インバウンド需要の拡大」であり、一方、多くは脅威となりますが、最大の脅威は「EC化」であると想定しております。現状の日本のEC化率は5%程度ですが、10年後には欧米や中国を上回る20%程度まで拡大することは、十分あり得ると考えております。とりわけ売上に占めるアパレルや雑貨などのファッション構成が高い業態は、EC化によって代替される割合が食品中心の業態と比べて大きくなることが想定されますので、その影響は甚大と考えられます。また、「モノ消費からコト消費へ」のシフトによってアパレル売上の減少は長期的に継続していくものと考えられます。

 次に、「シェアリングエコノミーの台頭」です。現在の利用者は2%程度と言われておりますが、10年後には10%程度まで拡大している可能性があります。シェアリングとは、言い換えるとモノを買わなくなる、ということですので、小売からみると脅威となります。また、「少子高齢化」により、消費の担い手である現役世代の人口は年々減少してまいります。

 これらの脅威に対する当社の対応は、現在中期経営計画ですすめておりますSC・定借化とオムニチャネル化です。モノの販売を中心とした百貨店型の業態からSC型へ転換することによって、EC化の影響を受けにくい飲食のカテゴリーを拡大するほか、ECが代替できないサービスや体験を提供するテナントを拡充してまいります。さらに、今後はECとリアル店舗を同時に展開するオムニチャネルのテナントも戦略的に導入をすすめてまいります。

 オムニチャネル化につきましては、自社においても取組みをすすめてまいります。シューズの体験ストアを他のアイテムにも拡大するほか、アニメの三位一体型のイベントなども展開をすすめてまいります。加えて、シェアリングエコノミーの台頭には、新規事業としてモノ、スペースの両面で事業化に向けた取組みをすすめてまいります。また、人口減少に対しては、年齢、身体的特徴、性別を超えてすべての人に楽しんでいただける商品、サービス、商業施設を提供する「顧客のダイバーシティ&インクルージョン」の取組みをすすめることで引き続き客層・客数の拡大をはかってまいります。

 次に、フィンテック事業につきましては、小売とは対照的に機会に恵まれており、小売にとって脅威だったものが機会に転じてまいります。最大の機会は「キャッシュレス化」です。EC化やモノ消費からコト消費へのシフト、シェアリングエコノミーなどがキャッシュレス化を促進する要因になると想定されます。キャッシュレス化が進むことで、クレジットカード市場は過去10年間で年率7%成長してきましたが、この成長は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた環境整備とあわせて、今後も継続することが予想されます。

 また、「貯蓄から投資へ」につきましては、従来のクレジットカード事業では機会になり得ませんでしたが、フィンテックへの事業の再定義によって機会になってまいります。一方、脅威につきましては、キャッシュレス化の進展にともなうキャッシング市場の縮小が懸念されます。あわせて、キャッシュレス化にともなう決済手段の多様化により、クレジットカード以外の決済手段が台頭し、クレジットカードのシェアが侵食されるという可能性が想定されます。

 これらに対する当社の対応は、平成18年からすすめてきましたハウスカードから汎用カードへの転換と、カードからフィンテックへの事業の再定義です。エポスカードは、汎用カードへの革新によりまして、キャッシュレス化の恩恵を蒙ることのできる事業に転換することができました。今後は、カードからフィンテックへの事業の再定義によって、新たなビジネスチャンスが広がると同時に、決済手段の多様化などにも自らフィンテックとして取組むことにより、一方的にシェアを侵食されるのではなく、新たな決済手段とクレジットカードを関連させることで脅威を機会に変えたいと考えております。

 改めて当社の機会と脅威への対応を整理しますと、小売事業では、数々の脅威が同時進行しますが、これらにSC・定借化とオムニチャネル化で対応し、脅威をチャンスに変えてまいります。また、すべてのお客様に向けた取組みで、インクルーシブなビジネスを実現し、あわせて、新規事業で来るべきシェアリングエコノミーの時代に向けた新たなビジネスを開発してまいります。フィンテック事業では、キャッシュレス化によるクレジットカード市場の拡大という機会に加えて、新規会員の拡大、メインカード化という営業努力によりまして、キャッシング市場の縮小リスクを吸収して、引き続き高成長を実現いたします。また、フィンテック分野への事業領域の拡大によりまして、新たな事業を開発するとともに、若者を中心としたファイナンシャル・インクルージョンの実現をめざしてまいります。

■成長投資と株主還元

 平成33年3月期を最終年度とする中期経営計画にもとづき、事業で創出されるキャッシュ・フローを有効活用し、成長投資と株主還元を強化してまいります。成長投資につきましては、300億円を既存事業以外の新規事業に充てることを計画しております。

 投資領域は、フィンテックとECとシェアリングの3つで、フィンテックでは、決済と資産運用、シェアリングでは、モノとスペースの2つの領域を考えております。投資の目的は純投資ではなく、投資・協業を通じて本業の拡張と革新につなげてまいります。配当につきましては、連結配当性向40%以上を目安とし、EPSの長期的な成長に応じた継続的な配当水準の向上につとめ、「高成長」と「高還元」の両立をめざしてまいります。

 また、自己株式の取得につきましては、キャッシュ・フローの状況等を総合的に勘案し、資本効率と株主利益の向上に向けて適切な時期に実施してまいります。なお、取得した自己株式につきましては、原則として消却する予定です。

 以上のように、中期経営計画を踏まえたグループ戦略を展開し、より一層の企業価値の向上につとめてまいる所存でございますので、株主の皆様におかれましては、今後とも変わらぬご支援、ご鞭撻を賜りますよう、お願い申しあげます。