当連結会計年度における我が国経済は、新型コロナウイルス感染症の流行が続くなかで、飲食や宿泊などサービス産業を中心に個人消費が落ち込み、また事業活動への各種制約から企業収益が大幅に悪化するなど、大変厳しい状況となりました。
不動産業におきましては、オフィスビル市場は、経済活動の停滞等からオフィス集約・縮小の動きが見られる一方で、コロナ禍における在宅勤務の普及や働き方改革の進展が、企業の人材戦略・一体感の醸成の場としてのオフィスの重要性の再認識に繋がった側面もあり、このようなニーズに対応した次世代型のオフィスには概ね安定した需要が見られました。次に不動産投資市場では、金融緩和により良好な資金調達環境が維持されるなか、パンデミックの影響が海外との比較では少ないこともあって、我が国の市場における投資家の物件取得意欲は総じて高く、取引価格は底堅く推移いたしました。また分譲住宅市場では、販売活動への制約があるなかで供給戸数が減少する一方、立地や利便性に優れた物件へのニーズは根強く、取引価格は堅調に推移しております。
一方、ホテル・リゾート関連市場や都心部の商業施設などでは、渡航制限によるインバウンド需要の消失と外出自粛の影響を強く受け、政府による政策的な支援はあるものの、厳しい状況が続いております。
当社グループは、2017年度にスタートした前中期経営計画に沿って着実な成長を続けてまいりましたが、今回のコロナ禍による事業環境の激変を受けて、計画最終年度であった2020年度の財務目標は、誠に遺憾ながら未達成となりました。
その一方で2020年度は、新たな日常への対応を迫られるなかで、テレワークの浸透など働き方の多様化、様々な生活シーンにおけるデジタル化などが急速に進展したほか、激甚化する自然災害への危機感から環境に対する問題意識が一層高まるなど、ライフスタイルや価値観においてパラダイムシフトが加速した1年であったと認識しております。
このような環境のもと、私どもは、幅広い事業ウイングのそれぞれのシーンにおいて、お客さまや従業員の感染防止に全力で取り組みながら、事業活動の継続に注力してまいりました。あわせて、パラダイムシフトを経て移り変わりつつあるお客さまのニーズや社会・事業環境のなかにおいても、持続的な成長を実現し続けていくために、この先の10年を見据えた長期ビジョンの策定を推進してまいりました。
当連結会計年度は、売上高は9,077億35百万円(前期比5.8%減)、営業利益は565億17百万円(前期比28.7%減)、経常利益は465億55百万円(前期比31.0%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は216億68百万円(前期比43.9%減)となりました。
次に各事業についてご報告申しあげます。
都市事業におきましては、東急不動産㈱は、賃貸事業基盤の拡充に向けた再開発事業の推進、多様化するワークスタイルに応えるためのサービス拡充や、インフラ・インダストリー関連施設の開発に注力してまいりました。
再開発事業では、「渋谷駅桜丘口地区第一種市街地再開発事業」をはじめ、各プロジェクトを着実に推進してまいりました。2020年9月には、新たな国際ビジネス拠点の創出に向けて開発を続けてきた最先端の都市型スマートビル「東京ポートシティ竹芝オフィスタワー」(東京都港区)が満室稼働で開業を迎えました。竹芝地区では、「Smart City Takeshiba」プロジェクトなどを通じて、先端技術を活用したサービス展開による地域の課題解決や付加価値創出を実現するモデルケースの構築を目指し、地域や関係者の皆さまと一体となった街づくりを引き続き推進してまいります。
商業施設事業では、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、施設の休館や時短営業など、刻々と変化する状況のなかで必要な対応を取りながら、事業継続に取り組んでまいりました。2020年12月には既存ビルのリノベーションにより「キュープラザ新宿三丁目」(東京都新宿区)を開業しており、引き続き事業拡大を図ってまいります。
インフラ・インダストリー関連では、東急不動産㈱が推進する再生可能エネルギー事業が、原子力発電所約1基分に相当する定格容量1GW(開発中を含む)を超え、国内の再生可能エネルギー事業者ではトップクラスの規模へと成長してまいりました。また同社は、国から再生可能エネルギーの主力電源化の方針が打ち出されるなか、他の有力事業者と共同で2019年に設立した「(一社)再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(REASP)」を通じ、再生可能エネルギーを長期的かつ安定的に供給する仕組みづくりにも参画しております。入居テナントさまにおいても環境に配慮した事業展開が重要な課題となるなか、再生可能エネルギーの安定供給に取り組むことで、当社グループのオフィス・商業施設の魅力を一層高めてまいります。
東急住宅リース㈱は、事業競争力の強化、IT活用による生産性・サービス向上及び従業員の働きがい向上に重点的に取り組むことで、持続的な成長に向けた事業基盤の整備を図ってまいりました。当事業年度には、営業開始後約5年で、同社の賃貸住宅管理戸数が節目となる10万戸を突破いたしました。今後とも、オーナーさまの保有資産の最適な運用・活用と、ご入居者さまに向けたサービスの一層の拡充に取り組み、さらなる事業規模の成長を目指してまいります。
また、㈱学生情報センターでは、コロナ禍の非接触ニーズを踏まえ、またお客さまのお部屋探しの費用・手間・時間の削減により競争力強化を図るため、オンライン内覧や動画による物件紹介、Web上での入居申込みなど、お問い合わせから契約までオンラインにより対応可能な体制の整備を推進してまいりました。
以上の結果、都市事業の売上高は3,048億98百万円(前期比4.2%増)、営業利益は549億78百万円(前期比4.7%増)となりました。
住宅事業におきましては、東急不動産㈱は、マンションギャラリーの来場制限をはじめ、感染防止策を徹底しながら営業活動を展開してまいりました。また、引き続き需要が堅調な複合再開発物件や投資家向け賃貸住宅などの開発に注力するとともに、住宅ブランド「BRANZ(ブランズ)」の浸透に取り組んでまいりました。
当期は、分譲マンションとして、JR東日本管内の東海道本線で初となる駅前複合再開発プロジェクトとして開発を推進してきた「ブランズタワー大船」(横浜市)や、「ブランズシティ蓮田」(埼玉県蓮田市)、「ブランズシティ調布」(東京都調布市)等を売上に計上いたしました。
また、東急不動産㈱が開発し、㈱学生情報センターが運営する学生レジデンス「CAMPUS VILLAGE(キャンパスヴィレッジ)」シリーズは、2020年度に首都圏で「赤塚新町」(東京都板橋区)、「元住吉テラス」(川崎市)、「多摩センター」(東京都多摩市)の3物件、また関西圏では「京都下鴨東」(京都市)の1物件を新築し、累計約1,400室まで規模を拡大してまいりました。今後も順次、開発を進めてまいります。
以上の結果、住宅事業の売上高は、1,463億22百万円(前期比7.3%増)、営業利益は84億29百万円(前期比1.3%減)となりました。
管理事業におきましては、㈱東急コミュニティーは、暮らしに不可欠なサービスを安心・安全にご提供し続けていくことを最優先に、お客さまや従業員の感染症対策に注力しながら、事業を推進してまいりました。
マンション管理では、管理組合の運営等における非接触ニーズに加え、利便性・効率性も考慮し、居住者さま向けポータルサイトの機能拡充によるサービス強化を図りました。加えて、建物の「これまで」「いま」「これから」を見通す管理会社ならではの工事提案を「Revive+(リバイヴ プラス)」としてブランディングし、マンション大規模改修工事の周期を従来の12年から最大18年へ延長する長期保証商品を開発するなど、お客さまの課題と向き合ったソリューション提案を目指してまいりました。
ビル管理では、豊富な管理ノウハウを活かし、施設の利用者特性に応じた、安心・安全、快適で上質な管理を追求してまいりました。また、次世代型の施設管理を見据え、清掃ロボットの実用化に向けた取り組みやスマートフォンを活用した点検・報告の仕組みを導入するなど、基盤整備を進めてまいりました。
当期は、高い難易度と公益性を併せ持つ「大阪コロナ重症センター」(大阪市)や、複合施設「ところざわサクラタウン」(埼玉県所沢市)等の管理を開始いたしました。
営業活動の自粛による工事受注減等の影響から、管理事業の売上高は1,848億26百万円(前期比3.1%減)、営業利益は66億18百万円(前期比24.2%減)となりました。
仲介事業におきましては、東急リバブル㈱は、不動産の価値を高める最適な提案によりお客さまをサポートする「不動産情報マルチバリュークリエーター」の実現に引き続き注力しながら、積極的な店舗展開による収益基盤の拡大を図ってまいりました。なお、2021年4月には、全国のリバブルネットワーク数が200拠点を超える規模へと拡大しております。
お客さまのユーザビリティ向上を目指す取り組みとしては、2019年度開発の「AI相性診断」に続いて、過去の市場データに直近1年間の査定データを統合してAIが不動産の査定価格を算出する「AI査定システム」、同社の保有する過去の取引データや営業担当者の積み重ねてきたノウハウをAIに取り込み、お客さまごとにニーズに沿った物件をご紹介する「投資用区分マンションAIマッチングシステム」など、AIを活用したサービスの一層の拡充を推進いたしました。
充実した店舗ネットワークとAI活用によるサービスの強化、リアルとネットそれぞれの強みを活かし、掛け合わせることで、一層の競争力強化と事業規模の拡大を図ってまいりました。
以上の結果、仲介事業の売上高は1,284億16百万円(前期比2.3%減)、前期における高利益率案件計上の反動などから、営業利益は123億16百万円(前期比19.1%減)となりました。
ウェルネス事業におきましては、東急不動産㈱は、お客さまに安心してご利用いただけるよう感染症対策の徹底に努めながら、各施設の運営に注力してまいりました。
ホテル・リゾート事業では、2020年7月に、総合的な運営能力強化を目指してグループの運営会社を統合した「東急リゾーツ&ステイ㈱」が発足いたしました。経験とノウハウに裏打ちされた多彩な過ごし方や楽しみ方の提案を通じて、一人ひとりのお客さまに合わせた豊かな時間と体験を提供してまいります。
また、2020年11月には、伝統的な京都の町家の情緒を活かした宿泊施設「nol kyoto sanjo(ノル キョウト サンジョウ)」(京都市)を開業しております。
ヘルスケア事業では、シニア住宅「グランクレール」の新規施設として、2020年7月に「芝浦」(東京都港区)、9月に「立川」(東京都立川市)を開業いたしました。また各シニア施設の運営では、感染症対策に特に念入りな注意を払いつつ、ご入居者さまに安心して穏やかな日々を過ごしていただけるよう、日夜取り組みを続けております。
次に、フィットネスクラブ「東急スポーツオアシス」は、スタジオレッスンを配信しご自宅でもお楽しみいただける「WEBGYM(ウェブジム)」の拡充や、ホームフィットネス商品の拡販など、巣ごもり生活における健康づくりのサポートに注力してまいりました。
福利厚生代行業では、㈱イーウェルは、企業・健康保険組合の健康支援サービスなどが堅調に推移し、収益拡大に寄与いたしました。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症による需要落ち込みの影響から、ウェルネス事業の売上高は876億38百万円(前期比23.4%減)、113億90百万円の営業損失となりました。
ハンズ事業におきましては、㈱東急ハンズは、緊急事態宣言の発出等状況の変化にあわせ、適宜店舗の休業や営業時間短縮に対応してまいりました。加えて、コロナ後を見据え、店舗賃料の減額交渉や費用全般の節減、PB商品の拡充など収益の改善を図りながら、デジタルの活用による事業基盤の強化を推進いたしました。
店舗運営では、コロナ禍においてもお客さまに安心してお買い物をお楽しみいただけるよう、例年ご好評をいただいております年に1度の大感謝バーゲン「ハンズメッセ」を、2020年度はネットストア限定で開催しました。また、インターネットから在庫状況を確認して商品の取り置き・取り寄せができる店舗受け取りサービスの強化、アバター遠隔接客の実験導入など、お客さまの利便性向上に努めました。
新規出店としては、2020年11月に九州で6店舗目となる宮崎店(宮崎県宮崎市)をフランチャイズ方式で開業しております。また、2020年7月に実験型店舗として東急プラザ銀座に「NewStore by TOKYU HANDS」(東京都中央区)を開業し、地方自治体と共同でオンラインイベントを実施するなど、小売以外の事業創出にも注力しました。
しかしながら、渡航制限等によるインバウンド需要の喪失や外出自粛の影響による売上減少を補うには至らず、ハンズ事業の売上高は631億53百万円(前期比34.6%減)、44億19百万円の営業損失となりました。
海外事業におきましては、東急不動産㈱は、米国や、インドネシアをはじめとする東南アジア等における事業展開に取り組んでおりますが、2020年度は、進出先各国において社会、経済に大きな影響を及ぼしている現地の新型コロナウイルス流行の状況を注視しながら、また、お客さまや取引業者さま、従業員の安全を最優先しつつ、慎重に事業に取り組んでまいりました。
請負工事業では、「みどりとともに」を掲げ都市緑化及び造園事業に取り組む㈱石勝エクステリアが、造園工事等の積極的な営業に取り組み、都市を彩る様々な場所でやすらぎと癒しの空間づくりを目指しながら事業拡大を図ってまいりました。
海外事業において、国内と同様に販売センターの営業休止や来場人数制限などをおこなったことなどから、次世代・関連事業の売上高は166億67百万円(前期比52.7%減)、27億53百万円の営業損失となりました。