キヤノンは新たなる成長を実現するために、2021年から2025年までの5カ年経営計画「グローバル優良企業グループ構想フェーズⅥ」において「生産性向上と新事業創出による事業ポートフォリオの転換を促進する」ことを基本方針としています。
新規事業である商業印刷、メディカル、ネットワークカメラ、産業機器を含め、2021年に製品事業部を4つの産業別グループに再編し、事業競争力の強化と新たな成長ドライバーを創出する体制を整えました。それぞれのグループが成長性の高い分野に集中的に投資を行い、強化拡大を進めることで、キヤノン全体の成長を実現していきます。
5カ年経営計画の前半は新型コロナウイルス感染拡大の影響が残り、半導体を中心とする部品不足や物流逼迫の対応にも追われていましたが、落ち着きを見せた2023年以降、当社は成長のための取り組みを再開・加速しており、オフィス複合機やカメラなどの現行事業が利益を創出し、半導体露光装置や、メディカル、ネットワークカメラ、商業印刷などの新規事業で売上を伸ばしています。
今後も不透明な政治・経済の下での経営が続くと想定されますが、開発、調達、生産、販売の全ての部門が一体となって以下の重点施策を実行することで成長のモメンタムを維持し、2026年から始まる次の5年間でより大きな成長を実現するための基礎固めを行っていきます。
1. 産業別グループの強化拡大
事業ポートフォリオの転換を促進するために、4つの産業別グループが競争力を徹底強化して、拡大を図っていきます。
①プリンティンググループ
当社は家庭向けから、オフィス向け、さらに商業印刷機まで幅広くプリンティング機器を取りそろえている強みを生かし、多様化するプリントニーズに応えていきます。
デジタル商業印刷については、当社は、顧客である印刷会社の声を取り入れて高めてきた画質や生産性が業界内に浸透し、売上を伸ばしています。オフセット印刷機のリーディングカンパニーであるドイツのハイデルベルグ社との提携により販売チャネルを広げるとともに、高い成長が見込めるラベルやパッケージなどの産業印刷の分野へ本格参入してビジネス領域を広げ、成長を加速させていきます。
オフィス、ホームプリンティングについては、市場は成熟し大きな成長が見込めないため、製品競争力を高めてマーケットシェアの拡大を図るとともに、開発、生産、販売体制の見直しを進め、効率的な組織を構築することで収益性を高めていきます。
②メディカルグループ
当社は事業の中核を担う画像診断装置で確固たる地位を築くことを目指していますが、世界の競合にも引けをとらない製品ラインアップのさらなる拡充を図るのに加え、海外における販売力とプレゼンスの強化が喫緊の課題です。世界市場に大きな影響力を持つ医療先進国である米国において、営業リソースの増員など販売体制強化とともに、先端医療機関との共同研究やキーオピニオンリーダーである医師との関係強化を推し進めています。また、次世代のCTであるフォトンカウンティングCTについても、キヤノンの装置をもとに多数の論文が発表され注目度が高まっており、早期の発売を実現し当社のプレゼンス向上に貢献させていきます。
収益性については、昨年2月にメディカル事業革新委員会を立ち上げ、改善すべき点を洗い出しアクションを開始しています。キヤノン株式会社本体とキヤノンメディカルシステムズ社の一体化を進め、開発・生産・販売・管理の各オペレーションにおける効率性を高め、利益率を向上させていきます。
③イメージンググループ
デジタルカメラについては、カメラのリーディングカンパニーとして若年層も含めたユーザーに対し魅力ある製品を提供し続け、市場を今後も活性化させていくことが重要です。プロフォトグラファーやカメラを趣味とする方の静止画撮影ニーズや、SNSユーザーなどの多様な動画撮影ニーズの双方に応えるラインアップをそろえてまいります。
ネットワークカメラは、災害や犯罪から安心・安全を確保するために監視用途の需要が引き続き拡大していますが、店舗でのマーケティングや製造現場での工程管理などのニーズも高まっており、多様化するニーズに応えていくことで成長を加速させていきます。
④インダストリアルグループ
半導体は、AI、IoT、電気自動車(EV)などの技術革新に不可欠なデバイスとして今後も市場成長が続くと予測されており、それに伴い半導体露光装置に対する需要も高まっていく見通しです。旺盛な需要に応えるためには生産能力の大幅な増強が必要であると判断し、生産拠点の宇都宮において新工場の建設を進めており、本年の稼働開始を目指しています。
当社は売上の成長力をさらに高めるために「ナノインプリント半導体製造装置」の販売拡大を目指しています。半導体回路を光で焼き付ける従来の方式と異なり、パターンを刻み込んだ型をハンコのように押し付けて形成するこの装置は、量産に向けて半導体メーカーと共同で様々なパターニングの評価・検証を進めております。加えてArF露光装置についても本年下期からの市場投入を目指して開発を進めており、ラインアップを強化してカバーできる半導体製造工程の領域を広げていきます。
2. 生産構造改革の推進
不透明・不安定な世界情勢においてサプライチェーンはメーカーにとっての生命線であり、安定性や継続性の観点から、見直していかなければなりません。国内と海外の生産拠点の再編を行い、政治や社会が安定している国や地域への集約化により堅固な生産・供給体制を実現します。また、各生産拠点の稼働率をあげるとともに、高付加価値製品については国内回帰を進め、設計、生産技術、製造現場が連携して自動化・内製化技術に注力し、コスト競争力も同時に高めていきます。
3. 開発革新の推進
世の中の変化が激しく競争も厳しくなってきている中で、品質とコストに優れた製品をいち早く市場に投入していくことが重要であり、その出発点である開発において、生産技術や製造現場と連携し一体となって活動するコンカレント開発を全社的に展開していきます。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)やシミュレーション技術を活用し、試作などの開発時間やコストの圧縮を行い、さらなる開発生産性の向上を目指します。開発を支えるイノベーション人材を育成するために、優秀な技術者をトップサイエンティストおよびトップエンジニアとして認定する制度を強化・発展させるとともに、ソフトウエア技術者を育成する社内機関(CIST)を通じて能力向上をサポートします。
4. サイバーセキュリティリスクへの対応
グローバルで脅威が増している情報セキュリティリスクについて、当社はグループ全体で内部からの情報漏洩や外部からのサイバー攻撃への対策、従業員の意識向上などに取り組む一方で、万一情報セキュリティインシデントが発生した際、迅速に対処するための専門チームCSIRT※(シーサート)を設置しております。
また、キヤノンの製品・サービスについても、ネットワークを介してクラウドやスマートフォンとつながることによって利便性を高めており、個人情報や機密情報の漏洩などサイバーセキュリティリスクへの対策を開発段階から重視して取り組んでいます。
※Computer Security Incident Response Team(コンピューターセキュリティにかかる事件・事故に対処するための組織の総称)