当社グループは、創業以来、小売・フィンテック一体の独自のビジネスモデルを、時代やお客さまのニーズの変化に合わせて、革新・進化させてきました。前中期経営計画では、共創投資や新規事業投資からなる未来投資を加え、小売・フィンテック・未来投資の三位一体のビジネスモデルを推進し、インパクト、事業戦略、資本政策を通じてさらなる企業価値向上をめざしてきました。
(インパクト)
一人ひとりの「好き」の応援、働き方と組織のイノベーションなどが進捗した一方で、サステナブルな消費・暮らしの革新が苦戦しました。
(事業戦略)
小売はイベントフルな店などの施策により営業利益はほぼ計画通りに推移しました。フィンテックはコロナ禍からの回復が想定より遅れたことに加え、ゴールドカードの新規会員が伸び悩んだことで、計画を下回りました。未来投資では共創投資の貢献利益やIRRが進捗した一方で、新規事業開発が苦戦しました。
(資本政策)
資本政策では、2023年3月期に自己資本の最適化を完了し、早期にめざすべきバランスシートを実現しました。株主還元では、資本効率の向上と長期安定的な増配を実現するため、2024年3月期からDOEを導入したことで、配当は2025年3月期まで13期連続の増配となり、2025年3月期の配当は2024年3月期の約2倍に増え、2025年3月期まで13期連続の増配となりました。
2026年3月期を最終年度とする前中計の主要3KPIの達成の見通しにつきましては、コロナ禍からの回復遅れや新規事業開発が苦戦したことで1〜2年ほど遅れる見込みです。このような状況を鑑み、前倒しで新たな中期経営計画へ移行することが企業価値の向上につながると判断しました。
当社グループは、2031年の創業100周年に向けて「中期経営計画」改め「経営ビジョン&戦略ストーリー2031」を策定しました。経営ビジョンとして高い目標を掲げ、そこからバックキャスティングして戦略ストーリーを構築し、ビジョン・インパクト・事業戦略を連動させることで社会的価値の創出を実現していきます。
<経営ビジョン>
当社は、これまでの小売・フィンテック・共創投資による三位一体ビジネスから、フィンテックを中心とした「『好き』を応援するビジネス」へ転換することで、「インパクトと利益の二項対立を乗り越える」というビジョンを実現してまいります。
経営ビジョンの前提として、30年以上続くデフレ経済は変化の潮目を迎えており、消費者の行動にも変化が生じる中、これまでのポイント還元に代表されるコスパ消費とは対極となる「『好き』が駆動する経済」という新たな経済の可能性を見出し、この新しい市場を創造することで成長をしていきます。
<戦略ストーリー>
「『好き』を応援するビジネス」を通じてめざすインパクトと実現に向けた戦略は以下のとおりです。
1. 「好き」を通じて誰かのため、社会のためへと広がる消費
2. 「好き」を応援するファイナンシャル・エンパワーメント
3. 1・2のための支援戦略
4. 「フロー」を通じた創造性の発揮
5. ソーシャル・イントラプレナーによる事業開発
6. 探究領域
(「好き」を通じて誰かのため、社会のためへと広がる消費)
「好き」を応援するビジネスの目的は、「好き」を応援することで「自分のため」の消費が「誰かのため」となり、やがて「社会のため」へと広がっていくことでインパクトと利益を両立させることにあります。
当社グループの「好き」を応援するカードでは、ご利用を通じて応援したい相手に寄付ができるカードの会員が拡大しており、「誰かのため」に「寄付」することに幸せを感じる新しいタイプの消費者が、今後もますます増えていくと予想されます。
新しいタイプの消費者にお応えすることで差別化戦略を進め、「好き」を応援するカードの会員を2031年3月期には300万人まで拡大し、2041年3月期にはゴールドカードを上回る会員数をめざします。
(「好き」を応援するファイナンシャル・エンパワーメント)
当社グループはこれまで若者の自己実現を応援してきましたが、今後は「好き」を応援するファイナンシャル・エンパワーメントを通じて、すべての人の自己実現を支援してまいります。
これまでのフィンテックのビジネスでは、丸井の店舗がある大都市圏を中心とした地域で「信用の共創」によりクレジットカードを発行してきましたが、今後はその対象範囲を広げ、地域を問わず小売の新たな自主運営体制の全国展開を通じて会員募集をおこないます。
また、今後拡大する自営業、スタートアップ、フリーランサー等の多様な働き方に対しては「オーナーカード」、「ランサーズカード」、日本で働く外国人の方々に対しては協業を通じた「GTNカード」などを含め、会員募集を拡大します。
(支援戦略)
自主・PBに代わる新たな顧客接点として、コンパクトな面積で、高い集客力や会員募集力、客単価や荒利率の拡大が期待できる「好き」を応援するイベントとグッズ、カードの新しい自主運営ユニットを全国主要都市に展開することで、インパクトと利益の両立を支援します。
また、当社グループはこれまでDXを通じた顧客体験の向上をめざして、UXの先進企業でもあるグッドパッチ社との合弁会社や新たに設立したマルイユナイトを通じて、専門人材の採用を進めるとともにアジャイルな開発体制を整備してきました。
今後はプロフェッショナル人材の活躍を通じて、デジタルのUXと新自主運営ユニットによるリアルの体験を融合した独自の体験価値を提供することでロイヤルカスタマー化を推進します。
(「フロー」を通じた創造性の発揮)
当社グループでは、能力と挑戦、創造性と幸せ、というビジネスにとって重要な要素を包括的にとらえることのできる「フロー」という概念に注目し、社員一人ひとりの働きがいと組織活力を高める取り組みをおこなってまいりました。
今後は、「好き」を応援するコンクールなどを通じて自分の「好き」を仕事に活かす機会を増やし、創造性を発揮する組織づくりを進めることで、アイデアやナレッジ、ノウハウなどの無形資産を活かしたビジネスを拡大し、2031年3月期までに無形資産比率を70%以上に高めることで企業価値の向上をめざします。
(ソーシャル・イントラプレナーによる事業開発)
社外の起業家とのイノベーションの創出に加え、「会社にいながら社会を変えられるソーシャル・イントラプレナー(社内起業家)」の活躍を促すために、ビジネスプロデュース推進室を設置し、さまざまな雇用形態を通じて社内外から人材を募集し事業開発を進めます。
中長期的な人材育成のため「ソーシャル・イントラプレナー育成財団」を設立し、大学生、中高生向けに講座を提供します。将来的には当社グループへの入社やプロジェクトへの参加を通じ、当社グループの事業開発にも活かしてまいります。
(探究領域)
「好き」を応援するビジネスのグローバル化に取り組み、まずは「世界から見た『好き』の対象としての日本」というテーマで世界中から人材を募集し事業開発を進めます。
<リスク>
金利上昇による金融費用の増加に対処するため、リボ・分割手数料の見直しと調達金利の利率の引き下げに取り組みます。
リボ・分割手数料の見直しについては、2026年3月期の期中から手数料率を見直すことを検討しており、収益の増加を見込んでいます。
調達金利については、平均調達年限を短縮することで調達利率の低減をはかるとともに、格付の向上をめざして格付機関との対話を強化し、金融費用の増加抑制に取り組みます。
<資本政策と株主還元>
2031年3月期には、バランスシートは1.5兆円規模に拡大する見通しとなり、小売の自己資本比率が50%と、当社が最適とする35%から乖離する見込みとなるため、300億円の資本最適化をすることで連結自己資本比率16%を目標にバランスシートの見直しを進めます。
株主還元方針については、2031年3月期に向けてROE15%をめざすことを鑑み、DOE8%から10%へ引き上げをいたします。
資本配分については、6年間の基礎営業キャッシュ・フロー3,500億円を、成長投資としては既存事業に900億円、DX投資・事業開発などの未来投資に600億円、資本最適化に向けた自己株式取得に300億円、株主還元に1,700億円を配分する計画です。
<KPI>
2031年3月期におけるKPIはPBR3〜4倍、EPS成長率9%以上、TSR成長率は年率12%以上の高成長・高還元の実現をめざします。
株主の皆さまにおかれましては、今後も変わらぬご支援、ご鞭撻を賜りますよう、お願い申しあげます。
(注)サステナビリティ情報と財務情報のコネクティビティ
当社は、企業価値向上のため、ステークホルダーとの建設的な対話に資すると考えられる有益な情報については、財務情報・非財務情報にかかわらず、積極的に開示をおこなうことをポリシーとしており、事業報告において主にリカーリングレベニュー(継続的収入)といった当社が経営上重要と考えているLTV(生涯利益)に関する指標やインパクトなどのサステナビリティ情報を開示しています。
これらのサステナビリティ情報は、当社の企業価値の向上や毀損等をステークホルダーが評価するために有益な情報であり、サステナビリティ情報の基礎となるデータおよび仮定は連結計算書類をはじめとした財務情報の作成において、関連する会計上の見積り等に影響をおよぼすため、当社は上記の情報間のコネクティビティを重視しています。
具体的には、サステナビリティ情報の基礎データおよび仮定については、関連する財務情報の基礎データおよび仮定と同一のものを用いることで、サステナビリティ情報と監査証明の対象である財務情報のコネクティビティを確保しています。