対処すべき課題

重要な子会社別

 ソフトバンクグループ㈱の経営陣は、ソフトバンク・ビジョン・ファンド1およびソフトバンク・ビジョン・ファンド2、アームならびにソフトバンク㈱を、ソフトバンクグループ㈱による投資金額の規模および連結収益への影響が極めて⼤きい、最重要子会社と認識しています。各子会社における、優先的に対処すべき経営上の課題は以下のとおりです。

① ソフトバンク・ビジョン・ファンド1およびソフトバンク・ビジョン・ファンド2の成功

 ソフトバンク・ビジョン・ファンド1およびソフトバンク・ビジョン・ファンド2は、それぞれ2017年および2019年に活動を開始しました。データとAIを活用した成長可能性の⼤きな企業に対し⼤規模な投資を行い、中長期的視点から投資成果を最⼤化することを目指しています。ソフトバンク・ビジョン・ファンド1およびソフトバンク・ビジョン・ファンド2は、英国金融行為規制機構(The Financial Conduct Authority)による認可および規制を受けたソフトバンクグループ㈱100%子会社SBIAが運営しており、ソフトバンクグループ㈱がリミテッド・パートナーとして出資を行っているほか、SBIAがソフトバンク・ビジョン・ファンド1およびソフトバンク・ビジョン・ファンド2の事業活動に応じてソフトバンク・ビジョン・ファンド1およびソフトバンク・ビジョン・ファンド2から管理報酬および成功報酬を受け取ります。
 当社グループが戦略的投資持株会社としてのビジネスモデルを遂行するうえでソフトバンク・ビジョン・ファンド1およびソフトバンク・ビジョン・ファンド2の成功は極めて重要です。SBIAは、以下の取り組みを通じてソフトバンク・ビジョン・ファンド1およびソフトバンク・ビジョン・ファンド2の利益を中長期的に最⼤化していくことを目指しています。

a. ⼤型資金を中長期的に運用
 ソフトバンク・ビジョン・ファンド1は、986億米ドル(2021年3月31日現在)という多額の出資コミットメントに加え、存続期間が原則2029年11月20日までの長期にわたる私募ファンドという特色を有しています。また、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2も200億米ドル(2021年3月31日現在;なお2021年5月11日現在300億米ドルまで増額されています。)の出資コミットメントを持つ、⼤型のテクノロジー・ファンドです。こうした特色を生かし、ソフトバンク・ビジョン・ファンド1およびソフトバンク・ビジョン・ファンド2は、投資時点で企業価値が10億米ドルを超えると試算される非上場企業(いわゆる「ユニコーン」)またはユニコーンとなる可能性があると判断される企業を中心に構成される、ユニークな投資ポートフォリオを有しています。多種多様な市場およびテクノロジー分野においてプレゼンスを確立した企業に対して中長期的に投資を行うとともに地理的・戦略的な多様性を一定程度保つことにより、短期的な市場の変動による影響を抑え、中長期的なリターンの最⼤化を図っています。

b. 投資先価値向上の追求
 SBIAは、投資先を慎重に選定することに加え、投資後も様々な助言を通じて投資先の持続的な成長と発展を促すことにより、ソフトバンク・ビジョン・ファンド1およびソフトバンク・ビジョン・ファンド2の保有株式価値の最⼤化を追求していきます。具体的には、SBIAは投資先と当社グループおよびその投資先、取引先までを含めたエコシステムとのパートナーシップや協⼒関係を築くことにより、収益性と成長性を高める機会を捉え、実行することを目指しています。また、投資先企業の経営陣が成長を模索する中、各分野に精通したグローバルな専門チームによるサポートを提供するとともに、必要に応じて外部からの助言が受けられるよう計らっています。また、収益性およびガバナンス体制のモニタリングを行うなど、投資先の健全な成長を支援しています。
 2020年度において、新型コロナウイルスの感染拡⼤が、ソフトバンク・ビジョン・ファンド1およびソフトバンク・ビジョン・ファンド2の投資先企業に⼤きな影響を及ぼしました。イーコマースやエンターテインメント、ヘルスケア、教育、食料デリバリー、法人向けソリューションなどのセクターにおける事業は、デジタルサービスの導入が加速度的に進んでいることからのプラス影響を受けている一方、旅行・ホスピタリティーなどのセクターでは、業績回復のペースは比較的鈍いものとなっています。このような状況を踏まえ、SBIAは、前者のセクターでは投資先企業と連携して成長機会の活用に取り組む一方、後者のセクターでは、手元現預金残高の最適化に向けたより慎重な事業運営を指導しています。世界経済が新型コロナウイルスによるパンデミックから回復するに従い、その悪影響を受けたセクターの企業が財務体制を立て直し、成長を加速させることを期待しています。

c. 適切な運用体制の構築
 SBIAは、ソフトバンググループ㈱の副社長執行役員であるラジーブ・ミスラがCEOを務めるほか、投資銀行やベンチャー・キャピタル、テクノロジー企業など多様な経歴を持つシニア・リーダーたちが運営にあたっています。これまでに、運用資産およびグローバル展開におけるニーズと規模に相応しい投資・運用・資金調達・管理の各機能およびマネジメント陣を備えた組織を築いており、適切なインセンティブ体系の導入を含め、引き続きその改善に努めています。

② アームの長期戦略の成功

 2020 年度において当社グループは、アームの全株式をNVIDIA Corporation(以下「NVIDIA」)に対して売却することで合意しました。本取引(以下「アーム全株式の売却契約の締結」に定義します。)の完了後、当社グループは合計でNVIDIAの発行済み株式(自己株式を除きます。)の約6.7~8.1%を保有することになると見込んでいます(詳細は以下「アーム全株式の売却契約の締結」参照)。本取引の完了後も、当社グループのアームのテクノロジーと事業の潜在的な可能性に対する確信はまったく変わることなく、当社グループはNVIDIAの戦略的な主要株主としてアームの長期的な成功に引き続き貢献していきます。

アーム全株式の売却契約の締結
 2020年9月13日(米国時間)、アームの全株式を米国の半導体メーカーであるNVIDIAに対して取引価値を最⼤400億米ドルと評価した取引で売却すること(以下「本取引」)について、ソフトバンクグループ㈱100%子会社であるSoftBank Group Capital Limited(以下「SBGC」)、ソフトバンク・ビジョン・ファンド1およびNVIDIAの間で最終的な契約を締結しました。本取引の完了後、SBGCおよびソフトバンク・ビジョン・ファンド1は合計でNVIDIAの発行済み株式(自己株式を除きます。)の約6.7~8.1%を保有することになると見込んでいます(最終的なアーンアウト(詳細は以下をご参照ください)の金額により変動します。)。本取引は、英国、中国、EUおよび米国を含む必要な規制当局の承認、その他のクロージング要件の充足を条件とします。本取引の完了までには最終契約の締結から約18カ月かかると見込んでいます。本取引の取引価値の内訳は下表のとおりです。

(注1)

③アーンアウトについては、2022年3月31日に終了する会計年度のアームの売上高およびEBITDA(それぞれ一定の調整後)が最終契約で規定された目標値を達成することを条件に、SBGCおよびソフトバンク・ビジョン・ファンド1が、クロージング時、アーンアウトとして最⼤50億米ドルの現金またはNVIDIA普通株式最⼤10,317,772株を受け取ります。

 2016年のソフトバンクグループ㈱による買収以降、アームは研究開発投資を加速し、持続的な長期成長の源となるような、将来にわたって求められるテクノロジーの開発を行ってきました。ソフトバンクグループ㈱による買収時から2020年度末までに、研究開発に従事するアームの従業員数は42.2%増加しました。この集中的な投資の下で開発されたテクノロジーを使用した新製品の出荷が順次開始されていることが貢献し、アーム事業の2020年度の売上高は前期比6.5%増となりました。長期成長の実現に向け、アームは、モバイルコンピューティング、ネットワーク・インフラ、サーバー、車載アプリケーションおよびIoTの各分野をターゲット市場と定め、今後も研究開発を進める予定です。また、これらの市場におけるシェアの拡⼤・維持、アームのテクノロジーを使用するチップのロイヤルティー単価の増加および新商流の導入によるアームのテクノロジーの利用の促進の実現を目指しています。当社グループは、この長期戦略の遂行がアームの持続的な収益成長を下支えしていくことを期待しています。
 なお、アームの業績は半導体市場の動向に強く影響を受けることがありますが、アームが関連する半導体市場は、2020年度、5Gネットワークやスマートフォンの導入が急速に進んだことや、リモートワークの増加により、前年度比9.0%(注2)の成長を遂げました。これに対し、2020年度のアーム事業のテクノロジー・ロイヤルティー収入は前年度比16.7%増と、市場を上回る伸びを見せました。アームの業績が市場を上回って成長しているのは、業績への影響が⼤きいスマートフォンやコンシューマー・エレクトロニクスの市場が成長していることに加え、自動車やサーバー向けの市場においてもシェアを伸ばしていることによるものです。

世界の半導体市場(注2)

(金額ベース:十億米ドル)

(注2)

World Semiconductor Trade Statistics(WSTS)、2021年5月時点。同データはWSTS Inc.のヒアリングに協⼒をした半導体企業からの情報を元に作成されています。アームが関連する市場の数値は、プロセッサー技術を含まないメモリーおよびアナログチップを除く。

(注3)

2020年度に、アーム事業のうちISG(Internet-of-Things Services Group;IoTに関連するサービスグループ)事業は、それ以外のアーム事業とは別に管理されることが決定されました。これに伴い、2020年度のアーム事業はISG事業を除くアームの業績を表示し、前年度の業績についても同様に遡及修正を行っています。2018年度の業績については遡及修正を行っていないため表示していません。

③ ソフトバンク㈱グループの継続的な企業価値の向上

 日本の通信市場を取り巻く環境は、新型コロナウイルスの感染拡⼤により経済環境の悪化が発生する一方で、社会を支えるためのデジタル技術活用の必要性が急速に高まっています。また、5Gの商用化や、AIやIoT、ビッグデータの活用が急速に浸透し、人々の生活やビジネスのあらゆる場面がデジタル化されることで、産業そのものの構造が変わるデジタルトランスフォーメーションが一段と加速していくとみられています。このような中、ソフトバンク事業では、変化の激しい情報通信業界においてソフトバンク㈱グループの継続的な企業価値の向上を図るべく、成長戦略「Beyond Carrier」を推進しており、この戦略の下収益源の多様化が進んでいます。従来の通信キャリアの枠組みを超え、通信事業に加えて、ヤフーおよび新領域の3つの領域を伸ばすことにより収益基盤を強化し、持続的な成長を目指しています。具体的には、①通信事業のさらなる成長、②ヤフー事業の成長、および③新規事業の創出・拡⼤に加え、④コスト効率化に取り組んでいます。
 財務戦略としては、ソフトバンク㈱グループは、成長投資と株主還元の原資となるフリー・キャッシュ・フローを重要な経営指標と考えており、成長投資の継続と高い株主還元の両立を図るため、今後も安定的な調整後フリー・キャッシュ・フロー(注4)の維持を目指しています。また、中長期的な企業価値向上と株主への利益還元を重要な経営課題の一つとして位置づけており、配当については、安定性・継続性に配慮しつつ、業績動向、財務状況および自己株式取得を含む総還元性向等を総合的に勘案して実施していく方針としています。

(注4)

調整後フリー・キャッシュ・フロー=フリー・キャッシュ・フロー±親会社であるソフトバンクグループ㈱との一時的な取引+(割賦債権の流動化による調達額―同返済額)

全社

① 安定した財務基盤の構築

 当社グループでは、ソフトバンクグループ㈱が、子会社を含むグループ会社を投資ポートフォリオとして統括する戦略的投資持株会社としての財務運営を行っています。株式市場の変調を含む保有株式価値の変動の影響を受けやすい同ビジネスモデルにおいて、ソフトバンクグループ㈱は、これらの影響を可能な限り抑えた安定的な財務運営を行うことにより、安全性の確保を目指しています。具体的には、ソフトバンクグループ㈱のLTV(Loan to Value、調整後純有利子負債÷保有株式価値で算出(注5)。保有資産に対する負債の割合。)を金融市場の平時は25%未満、異常時でも35%を上限として管理するよう努めながら、新規投資や投資回収、投資資産価値の状況などに応じて適切に負債をコントロールしていくことを目指しています。また、投資資産の売却や資金化を行うとともに、子会社を含むグループ会社からの配当収入やリミテッド・パートナーとして参画するソフトバンク・ビジョン・ファンド1などのグループ内の投資ファンドから受け取る分配金などの収入も得ることで、最低2年分の社債の償還資金を確保し安全性を維持するよう努めています。
 さらにソフトバンクグループ㈱は、上記の財務方針を堅持するにとどまらず、市場環境に応じた機動的な財務運営を行っています。ソフトバンクグループ㈱は、新型コロナウイルス感染拡⼤に伴う資本市場の急激な悪化と不透明感の高まりに対応するため、2020年3月に株主還元と負債削減などを通じた財務改善のための4.5兆円のソフトバンクグループ㈱保有資産の売却または資金化に関する方針(「4.5兆円プログラム」)を決定した後、2020年9月末までに5.6兆円の資産の売却および資金化を完了するなど、2020年度において速やかに実行に移しました。ソフトバンクグループ㈱は今後も、金融市場の急変などあらゆる変化に柔軟に適応する体制をとることで、持続的な投資会社としての事業運営に努めていきます。

(注5)

保有株式価値および調整後純有利子負債は、いずれもアセットファイナンスにおける満期決済金額または借入金を除きます。また、調整後純有利子負債の算出からは、当社グループのうち、上場子会社であるソフトバンク㈱およびZホールディングス㈱などのほか、ソフトバンク・ビジョン・ファンド1、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2、アーム、PayPay㈱およびFortress Investment Groupなど独立採算で運営される事業体ならびに上場株式等への投資を担う資産運用子会社SB Northstarに帰属する有利子負債および現預金等を除きます。

② 流動性・多様性を備えた投資ポートフォリオの構築

 戦略的投資持株会社として保有株式価値を保全し、かつ持続的に増⼤させていくためには、投資ポートフォリオの流動性および多様性を確保することが不可欠です。流動性については、ソフトバンクグループ㈱ならびにソフトバンク・ビジョン・ファンド1およびソフトバンク・ビジョン・ファンド2などにおける投資事業においては、事業の成長率および市場における流動性の高い情報・テクノロジー分野の中で、事業モデルや競争優位性が確立し近い将来での株式上場の蓋然性が高いと当社グループが判断した未上場のレイトステージ企業に集中的な投資を行っており、これらの投資先の上場が進むにつれ、結果として、これらの投資先が上場を果たすことによる将来的な流動性の確保が高い確度で期待できるものと認識しています。
 また、多様性については、2020年度末現在のソフトバンクグループ㈱の保有株式価値においてアリババ株式の割合は4割強と高いものの、ソフトバンクグループ㈱は同社の成長性および将来的な株価上昇余地を高く評価しており中長期的に保有予定であることから、同社株式を保有すると同時に投資ポートフォリオにおける多様性を高めていくことが重要であると認識しています。このため、ソフトバンクグループ㈱は、保有株式価値を活用した資金調達により売却を伴わない資金化を行い新規投資に充当するとともに、保有株式価値の向上に努めることで、投資ポートフォリオにおける多様性の向上を図っています。なお、2020年度からは、資産運用子会社SB Northstarを通じて、市場での取引が活発な米国テクノロジー銘柄を中心とする上場株式等への投資を開始しており、同社を通じた投資も、ソフトバンクグループ㈱の投資ポートフォリオの多様性向上の一翼を担うものと認識しています。

③ サステナビリティの推進

 当社グループは、「情報革命で人々を幸せに」という経営理念の下、社会の持続的な発展と当社グループの中長期的な成長の両立を実現するために、企業活動においてサステナビリティを考慮することの重要性を認識し、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関わるリスクに対処するとともに、ESGに関わる課題への対応が新たな企業価値創出の契機になると考えています。
 ソフトバンクグループ㈱は、サステナビリティの推進にあたり、「考えるのは、300年後の人と地球」というサステナビリティビジョンを策定しており、本ビジョンに基づき、6つの活動テーマの設定とソフトバンクグループ㈱が特に取り組むべき優先度の高い重要課題(戦略マテリアルイシュー)の特定を行っています。
 またサステナビリティに関するガバナンス体制として、財務戦略の最高責任者であるCFOを、サステナビリティ推進責任者であるチーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSusO)として任命しており、財務と非財務の両面からリスクと機会の検討を可能とすることで、より競争⼒の高い経営の実現を目指しています。また、執行役員を中心としたメンバーでサステナビリティ委員会を構成することにより多角的な視点から重要課題や推進方針、リスク、機会の検討を行い、関係者間の合意形成および具体的な活動の推進を監督するとともに、取締役会への報告を行っています。
 2020年度においては、2020年10月および2021年3月にサステナビリティ委員会を開催し、ESGに関する全般的な情報開示の拡充、気候変動に対するより積極的な対応、人権に対する責任、サプライチェーンや投資先を含む企業取引全般への責任等を重要な課題として捉え、今後の対応方針について議論を行いました。

 今後は、グループ会社各社と連携して気候変動への取り組みを進めるとともに、人権デューデリジェンス体制の確立、リスクマネジメント体制の拡充等を目指しています。また、投資活動においては、投資先のサステナビリティを促進することが投資リターンのさらなる向上に繋がるとの考えの下、ESG要素を投資プロセスに組み込むことを重視しており、投資判断の迅速性を損なうことなくリターン向上を確保するための当社グループのベストプラクティスを確立することについて、継続的に検討を行っています。

前の項目へ
2021/06/23 13:00:00 +0900
外部サイトへ移動します 移動 ×

カメラをかざして
QRコードを
読み取ってください

{{ error }}