対処すべき課題

全社

1 安定した財務基盤の構築

 当社グループでは、ソフトバンクグループ㈱が投資ポートフォリオを統括する戦略的投資持株会社としての財務運営を行っています。株式市場の動向を含む保有株式価値の変動の影響を受けやすいビジネスモデルにおいて、ソフトバンクグループ㈱は、これらの影響を可能な限り抑えた安定的な財務運営を行うことにより、安全性の確保を目指しています。具体的には、ソフトバンクグループ㈱のLTV(Loan to Value、調整後純有利子負債÷保有株式価値で算出(注1)。保有資産に対する負債の割合。)を金融市場の平時は25%未満、異常時でも35%を上限として管理しながら、新規投資や投資回収、保有株式価値の状況などに応じて適切に負債をコントロールしています。また、投資資産の売却や資金化を行うとともに、子会社を含む投資先からの配当収入やリミテッド・パートナーとして参画するソフトバンク・ビジョン・ファンド1(以下「SVF1」)およびソフトバンク・ビジョン・ファンド2(以下「SVF2」)ならびにソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンド(以下併せて「SVF」)などのグループ内の投資ファンドから受け取る分配金などの収入も得ることで、今後2年分の社債償還資金以上の手元流動性を確保し、安全性を維持しています。
 2022年度においては、アリババ株式を中心に資産の継続的な資金化を進めるとともに、SVFの投資を大幅に縮小した結果、前年度末からLTVが大幅に改善し、手元流動性も大幅に増加しました。2023年度以降も、財務方針を遵守した上で戦略的投資持株会社としての事業運営に努めていきます。

(注)

1.保有株式価値および調整後純有利子負債は、いずれもアセットバック・ファイナンスにおける満期決済金額または借入金を除きます。また、調整後純有利子負債の算出からは、当社グループのうち、上場子会社であるソフトバンク㈱(Zホールディングス㈱およびPayPay㈱をはじめとする子会社を含む)、SVFおよびアームなど独立採算で運営される事業体、ならびに資産運用子会社に帰属する有利子負債および現預金等を除きます。

2 流動性・多様性を備えた投資ポートフォリオの構築

 戦略的投資持株会社として保有株式価値を持続的に増大させていくためには、投資ポートフォリオの流動性および多様性を確保することが不可欠です。流動性については、ソフトバンクグループ㈱およびSVFなどにおける投資事業においては、事業の成長率の高いテクノロジー分野の中で、ビジネスモデルや競争優位性を確立し、近い将来での株式上場の蓋然性が高いと見込まれる未上場のレイトステージ企業に投資を行っており、これらの投資先の上場が進むにつれ、流動性の向上が期待できます。また、後述のとおり、子会社であるアームが新規株式公開に向けて準備を進めており、実現の暁には流動性の大幅な向上を見込んでいます。
 多様性については、2022年度末現在のソフトバンクグループ㈱の保有株式価値においてアリババ株式の割合は5%にまで低下しており、すでに投資ポートフォリオの分散が進んでいます。また、ソフトバンクグループ㈱が投資ファンドを通じて投資している企業は、AI技術を活用するという共通点を持ちながらも、コンシューマー、交通、医療、不動産またはフィンテックなどさまざまな産業に分散している上、米国、欧州、中国を含むアジアおよびラテンアメリカなど、地理的にも分散しています。さらにSVF2では投資の小口分散も図られています。こうした分散効果により、一部の産業・地域における変調がソフトバンクグループ㈱の投資ポートフォリオ全体に与える影響は抑えられています。

3 サステナビリティの推進

 当社グループは、社会の持続的な発展と当社グループの中長期的な成長の両立を実現するために、企業活動においてサステナビリティを考慮することの重要性を認識し、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関わるリスクに対処するとともに、ESGに関わる課題への対応が新たな企業価値創出の契機になると考えています。
 ソフトバンクグループ㈱は、当社グループがサステナビリティに関する活動を適切に推進するための指針として、「ソフトバンクグループサステナビリティ基本方針」を制定し、本方針においてサステナビリティビジョンおよび活動テーマを定めています。また、特に優先して対処すべき重要課題を特定し、サステナビリティの取り組みを進めています。
 ソフトバンクグループ㈱は、サステナビリティに関するガバナンス体制として、取締役会で任命するチーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSusO)を委員長とするサステナビリティ委員会を設置し、サステナビリティに関する重要な課題や今後の対応方針などについて議論を行い、その内容について取締役会に報告して監督を受けています。また、サステナビリティに関するリスク管理として、財務と非財務の両面からリスクを網羅的に把握し、その対応および対応状況のモニタリングを行っています。

重要な事業別

 ソフトバンクグループ㈱の経営陣は、投資ファンド(SVF1およびSVF2ならびにソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンド)、アームおよびソフトバンク㈱を、当社グループによる投資金額の規模および連結収益への影響が極めて大きい、最重要事業と認識しています。各事業における、優先的に対処すべき経営上の課題は以下のとおりです。

1 投資ファンドの成功

 SVF1およびSVF2ならびにソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンドは、いずれもデータとAIを活用した成長可能性の大きなテクノロジー企業に対し投資を行い、中長期的視点から投資成果を最大化することを目指しています。SVF1は2017年、SVF2およびソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンドはいずれも2019年に、それぞれ投資活動を開始しました。
 ソフトバンクグループ㈱は各投資ファンドにリミテッド・パートナーとして出資を行っており、また、各投資ファンドを運営する当社100%子会社(SVF1を運営するSBIAおよびSVF2とソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンドを運営するSBGA、以下総称して「ファンド運営子会社」)は、各投資ファンドの事業活動に応じてSVF1から管理報酬および成功報酬、SVF2から管理報酬および業績連動型管理報酬、ソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンドから管理報酬、業績連動型管理報酬および成功報酬を受け取ります。
 ソフトバンクグループ㈱が戦略的投資持株会社としてのビジネスモデルを遂行する上で、これらの投資ファンドの成功は極めて重要です。ファンド運営子会社は、以下の取り組みを通じて各投資ファンドの利益を中長期的に最大化していくことを目指しています。ただし、足元では欧米各国を中心とした歴史的な高インフレとそれに対応した金融引き締めの長期化の影響で、世界的に景気減速への懸念が和らぐことはなく、市場は不安定な状況が続いています。このため、2022年度は「守り」を徹底し、新規投資を大幅に抑制しました。

a. 大型資金を中長期的に運用
 SVF1およびSVF2ならびにソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンドはいずれも、多額の出資コミットメントに加え、存続期間が設立から十年超の長期にわたる私募ファンドという特色を有しています。2023年3月31日現在、各投資ファンドの出資コミットメント総額は、SVF1が986億米ドル、SVF2が560億米ドル(注2)、ソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンドが76億米ドルです。こうした特色を生かし、これらの投資ファンドは、投資時点で企業価値が10億米ドルを超えると試算される未上場企業(いわゆる「ユニコーン」)またはユニコーンとなる可能性があると判断される企業を中心に構成される、ユニークな投資ポートフォリオを有しています。多種多様な市場およびテクノロジー分野においてプレゼンスを確立した企業に対して中長期的に投資を行うとともに地理的・戦略的な多様性を一定程度保つことにより、短期的な市場の変動による影響を抑え、中長期的なリターンの最大化を目指しています。

(注)

2.2023年5月11日現在、SVF2の出資コミットメント総額は600億米ドルです。

b. 投資先価値向上の追求
 ファンド運営子会社は、慎重に投資先を選定し、幅広い支援やネットワークを通じて投資先の持続的な成長を促すことにより、各投資ファンドの保有株式価値の最大化を追求しています。具体的には、当社グループおよびその投資先、取引先までを含めたエコシステムを通じてパートナーシップや協力関係を築くことにより、収益性と成長性を高める機会を捉え、実行することを目指しています。また、投資先企業の経営陣が成長を模索する中、各分野に精通したグローバルな専門チームによるサポートを提供するとともに、必要に応じて外部からの助言が受けられるよう計らっています。また、収益性およびガバナンス体制のモニタリングを行うなど、投資先の健全な成長を支援しています。

c. 最適な出口戦略による投資回収
 活動開始時期の違いから、各投資ファンドの投資サイクルはそれぞれ異なるフェーズにあります。SVF1は2019年9月に投資期間を終了したことから、近時では、投資収益の実現による投資資金の回収に主眼を置いています。SVF2およびソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンドは、厳しい市場環境を踏まえて2022年度の新規投資を大幅に抑制したものの、引き続き投資フェーズにあります。投資収益の実現においては、ファンドのリターン、ひいてはソフトバンクグループ㈱を含むリミテッド・パートナーへの分配を最大化するために適時・適切な保有資産のエグジットを行うことが重要です。エグジット手段としては、M&Aによる第三者への売却を行うこともあるものの、主軸は投資先企業の上場です。投資先企業の上場後は、競争環境や株価の動向を見つつ、計画的に売却する仕組みを設定しています。また、上場株式を担保とした資金調達の選択的な活用により、リミテッド・パートナーへの分配を先行させつつ、最適と考えるタイミングで売却を判断することも可能です。
 2022年度においては、各投資ファンドの投資先企業合計4社が上場しました。足元では、地政学的リスクの高まりや米国をはじめとする主要中央銀行の金融政策への懸念を背景として、株式市場のボラティリティが高まっています。各投資ファンドは、設立から十年超の存続期間を持つ長期ファンドであり、最適なエグジットの手段・時期について見極め、短期的な市場の変動による影響を抑えながら、中長期的な視点から収益を最大化することを目指しています。

d. 適切な運用体制の構築
 投資の成功の再現性を高め、持続的にリターンを生み出すためには、それを可能にする組織体制を構築すること、特に優秀な人材の確保および維持が不可欠です。ファンド運営子会社は、投資銀行やベンチャー・キャピタル、テクノロジー企業など多様な経歴を持つシニア・リーダーたちが運営に当たっています。これまでに、運用資産およびグローバル展開におけるニーズと規模に相応しい投資・運用・資金調達・管理の各機能およびマネジメント陣を備えた組織を築いており、こうした専門家集団によるチームアプローチを取ることにより、組織的に知見の蓄積・共有を図り各投資ファンドの持続的な成長を目指しています。

2 アームの新規株式公開および長期戦略の遂行

 アームは、半導体技術が世界で最も重要な資源の一つとなった現在、半導体技術開発のグローバル・リーダーとしてこれからのコンピューティングの在り方を左右する存在となりつつあります。アームのプロセッサー・テクノロジーは、高機能プロセッサーとしては世界で最も広くライセンス供与・採用されており、スマートフォンではほぼ全て、タブレットとデジタルテレビのほとんどで使用されているほか、組み込みプロセッサー用チップでも高い割合で搭載されています。2016年のソフトバンクグループ㈱による買収以降、アームは長期成長の実現に向け、研究開発への投資を増やし、製品の種類および対象市場を拡大してきました。そして、現在、アームは新規株式公開に向けて準備を進めており、米国証券取引委員会に対して、同社の普通株式を対象とした米国預託株式(ADS)の新規公開計画(以下「本新規株式公開」)に関するForm F-1の登録届出書ドラフトを非公開で提出したことを2023年4月に公表しました。なお、ソフトバンクグループ㈱は、本新規株式公開の完了後もアームが引き続き連結子会社であることを想定しています。また、本新規株式公開は当社連結業績または財政状態に重要な影響を及ぼすことはない見込みです。
 アームは、長期的な収益成長を実現するために、モバイルアプリケーション向けプロセッサーをはじめ、クラウドコンピューティング、ネットワーク機器、自動車、コンシューマー・エレクトロニクスなどの市場におけるシェアの拡大・維持、アームのテクノロジーを使用するチップのロイヤルティー単価の増加、ならびに新商流の導入によるアームのテクノロジーの利用の促進に引き続き取り組んでいます。

市場の動向とその影響
 アームの業績は半導体市場の動向にプラスにもマイナスにも大きく影響を受けることがあります。アームが関連する半導体市場は、2020年から2021年の約2年にわたり好調な成長を示しましたが、2022年度は自動車向けチップの販売が引き続き増加した一方で、スマートフォンなどのコンシューマー・エレクトロニクス機器の販売が減少したことにより、前年度比3.2%減とマイナス成長(注3)となりました。こうした環境下においても、2022年度におけるアームの売上高は過去最高(米ドルベース)となりました。アームのテクノロジー・ロイヤルティー収入は、同社のテクノロジーを採用したネットワーク機器の5G基地局への導入進展や、ハイエンド5Gスマートフォンの好調な出荷に加えて、アームの顧客が自動車やIoT、サーバーなど多様な市場でシェアを拡大したことなどにより、前年度比16.1%増加(米ドルベース)しました。また、非ロイヤルティー収入(ライセンス収入およびソフトウエア・サービス収入)は、アーム史上最高の売上を記録した前年度に比べれば8.5%減(米ドルベース)となったものの、引き続きアームテクノロジーへの需要は強く前期に次ぐ高水準の売上となりました。
 業界アナリストは、半導体バリューチェーン全体で在庫水準が高止まりしており、これが低下するまでの期間は市場全体の収益が短期的に弱含む可能性を示唆しています。しかしながら、より多くの製品やサービスがより多くの組み込みインテリジェンスを必要とするようになる長期的なトレンドは変わらず、半導体市場は成長軌道に回帰すると予想されます。

(注)

3.World Semiconductor Trade Statistics(WSTS)、2023年5月時点。同データはWSTS Inc.のヒアリングに協力をした半導体企業からの情報を元に作成されています。アームが関連する市場の数値は、プロセッサー技術を含まないメモリーおよびアナログチップを除きます。

3 ソフトバンク㈱グループの継続的な企業価値の向上

 2020年からの新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響を受け、日本国内においても生活やビジネスのあらゆる場面でデジタル化が進展しています。同年3月に商用サービスが開始された5Gをはじめ、AI、IoT、ビッグデータ、ブロックチェーンなどの最先端テクノロジーにより今後も社会のデジタル化は一層進展し、産業そのものの構造が変わるデジタルトランスフォーメーション(DX)が一段と加速していくとみられています。
 こうした中、当社グループで国内事業を担うソフトバンク㈱グループは、成長戦略「Beyond Carrier」の下、コアビジネスである通信事業の持続的な成長を図りながら、通信キャリアの枠を超え、情報・テクノロジー領域のさまざまな分野で積極的にグループの事業を拡大することで、企業価値の最大化を目指しています。具体的には、①通信事業のさらなる成長、②法人事業におけるDX/ソリューションビジネスの拡大、③ヤフー・LINE事業の成長、④金融事業の成長、および⑤新規事業の創出・拡大に加え、⑥コスト効率化に取り組んでいます。
 財務戦略としては、ソフトバンク㈱グループは、調整後フリー・キャッシュ・フロー(注4)を重要な経営指標と考えており、高い株主還元を維持しながら、成長への投資を実施していくため、今後も同フリー・キャッシュ・フローの安定的な創出を目指しています。また、健全な財務体質を維持しつつ、適切な財務レバレッジを伴った資本効率の高い経営を行っていきます。

(注)

4.調整後フリー・キャッシュ・フロー=フリー・キャッシュ・フロー+(割賦債権の流動化による調達額―同返済額)


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2023/06/21 13:00:00 +0900
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