事業の経過および成果ならびに対処すべき課題

【当期のグループ業績】

 JFEグループは、「常に世界最高の技術をもって社会に貢献します。」という企業理念の実践を通じて、企業としての持続的な成長を図り、株主の皆様をはじめすべてのステークホルダーにとっての企業価値の向上に努めてまいりました。
 当期の国内および海外経済は、総じて新型コロナウイルス感染症の影響による落ち込みからの回復の動きが続いたものの、ウクライナ情勢の長期化や中国における経済活動の抑制、世界的なインフレ懸念の高まりや円安の進行もあり、物価上昇や供給面での制約等の影響が生じました。
 このような状況のもと、JFEグループでは、主原料や諸物価の価格転嫁による販売価格改善や、高付加価値品比率を上昇させる取り組みとともに、構造改革や高炉改修等を着実に実施することで、収益基盤の強化を進めてまいりましたが、為替影響や棚卸資産評価差等の減益要因により、事業利益および親会社の所有者に帰属する当期利益ともに前期に比べ減益となりました。

JFEスチール株式会社の業績

 JFEスチール株式会社では、資機材費高騰や半導体等部品供給の制約等の影響もあり、国内外の鋼材需要および特に下期の鋼材市況が軟調に推移するなか、価格重視の姿勢を堅持した結果、当期の連結粗鋼生産量は2,548万トンと前期に比べ減少しました。売上収益については、販売数量は減少したものの、販売価格改善の取り組みや円安による為替影響等を受け、3兆8,811億円と前期に比べ大幅な増収となりました。セグメント利益については、販売価格の改善や継続的なコスト削減に取り組んだものの、原料価格高騰や為替影響に加え、棚卸資産評価差等の一過性の減益要因により、前期に比べ大幅な減益となる1,468億円となりました。

JFEエンジニアリング株式会社の業績

 JFEエンジニアリング株式会社は、国内外の基幹インフラ分野を中心に積極的な受注活動を展開し、受注高は過去最高を更新しました。売上収益は前期に比べ増収となる5,125億円、セグメント利益は資機材費高騰および欧州での個別工事損益の悪化等により、前期に比べ減益となる134億円となりました。

JFE商事株式会社の業績

 JFE商事株式会社は、鋼材の拡販に努めた結果、国内外の鋼材販売量が総じて堅調に推移したことに加え、前期に比べ北米事業を中心に国内外において販売価格が上昇したことにより、年間の売上収益は1兆5,141億円、セグメント利益は過去最高となる651億円となり、前期に比べ増収増益となりました。


〈当社連結決算の状況〉

 以上の結果、当社単体業績等と合わせ、当期における連結での売上収益は5兆2,687億円となり、前期に比べ大幅な増収となりました。事業利益は2,358億円となり、前期に比べ減益となりました。個別開示項目として関係会社整理損失等107億円を計上したこともあり、税引前利益は2,102億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は1,626億円となりました。


〈当社単体の業績〉

 当社は、事業会社3社より計45億円を経営管理料として受け取りました。また事業会社3社より、受取配当金として計513億円を受領しました。その結果、当期の当社の営業利益は523億円、経常利益は523億円となりました。
 剰余金の配当につきましては、株主の皆様への利益還元を経営の最重要課題の一つと位置付けており、配当性向30%程度を方針としております。当期末の配当は、1株当たり30円で株主総会にお諮りすることといたしました。中間配当金50円と合わせ、年間では1株当たり80円としております。何卒ご了承賜りますようお願い申しあげます。

(注)
  1. 事業利益:税引前利益から金融損益および金額に重要性のある一過性の項目を除いた利益であり、当社連結業績の代表的指標です。
  2. セグメント利益:事業利益に金融損益を含めた、各セグメントの業績の評価指標です。
  3. 個別開示項目:金額に重要性のある一過性の性格を持つ項目です。
  4. 当社の単体業績は日本基準を適用しております。

【対処すべき課題】

 JFEグループを取り巻く事業環境は、新型コロナウイルスの感染拡大による落ち込みからの持ち直しや中国のウィズコロナ政策への転換等により経済回復の兆しがみられるものの、エネルギー・資源価格の高騰に伴うインフレの継続や欧米各国の金融引き締めによる景気後退懸念に加えて、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化、一部地域における地政学的リスクの高まり等により、先行きの不透明な状況が今後も続くと考えられます。さらに、全世界的に気候変動に対する危機感が従来にも増して高まっており、鉄鋼事業を中心とする当社グループにとって、気候変動問題への取り組みはより一層重要な経営課題となっています。

〈第7次中期経営計画〉

 こうしたなか、当社グループは、第7次中期経営計画(2021~24年度)で掲げた施策を推進し、社会の持続的発展と人々の安全で快適な生活のために「なくてはならない」存在を目指して、変革に向けた挑戦を続けています。「JFEグループ環境経営ビジョン2050」で示した気候変動問題への取り組みをはじめ、人材の活躍推進、地域社会への貢献やサプライチェーンの人権尊重等の取り組みを推進することにより、環境的・社会的持続性を確かなものといたします。また、鉄鋼事業における構造改革の完遂やDX戦略の推進等によってコスト競争力を高めるとともに、脱炭素化の進展を事業機会ととらえ、高機能電磁鋼板等の環境負荷低減に資する高付加価値品の供給や再生可能エネルギー発電の拡大等、成長戦略を推進することにより、より強靭な経営基盤を確立し経済的持続性を確保いたします。

(注)
  1. D/Eレシオ:格付け評価上の資本性を持つ負債について、格付け機関の評価により資本に算入しております。
  2. 鉄鋼事業のトンあたり利益:(連結セグメント利益÷単体出荷数量)

〈各事業会社の取り組み〉

■ JFEスチール株式会社においては、人口の減少により国内の鉄鋼市場は縮小に向かう一方、海外では、汎用品の価格競争激化に加え、鉄鋼製品の地産地消の流れが強まることが想定されており、第7次中期経営計画において掲げた「量」から「質」への転換を徹底するとともに、成長戦略を着実に推進してまいります。
 同社では、2022年度に東日本製鉄所千葉地区の缶用鋼板製造設備を休止し、西日本製鉄所福山地区に集約いたしました。さらに本年9月には、東日本製鉄所京浜地区の上工程および熱延設備の休止を予定しており、構造改革の完遂による固定費の削減や、DX推進を通じた生産効率の向上等により大幅なコスト削減を実現し、スリムで強靭な事業構造へと変革いたします。加えて、鉄鉱石や原料炭等の主原料をはじめとする諸物価のさらなる高騰が想定されるなか、従来から取り組んできた販売価格体系の抜本的な見直しを強化し、収益の拡大を目指してまいります。
 また特に、高機能電磁鋼板については、世界的な電力需要の拡大や自動車の電動化進展等により需要が急伸することを見据え、供給体制を増強し、伸び行く需要を確実に捕捉してまいります。国内においては、西日本製鉄所倉敷地区の設備増強を進めるとともに、海外においては、インドのJSWスチール社と方向性電磁鋼板製造販売会社の共同設立について事業性検証を進めております。
 今後同社では、現地生産化を通じた事業戦略の深化、品種構成の高度化による高付加価値品の製造拡大、さらには環境負荷低減等に関する高度な製造・操業・研究ノウハウを提供するソリューションビジネスの拡大等、成長戦略を着実に推進することで、収益の拡大に努めてまいります。

■ JFEエンジニアリング株式会社においては、『くらしの礎を「創る」「担う」「つなぐ」-Just For the Earth』というパーパスのもと、世界の人々のくらしを支え、地球を守り次世代につなげることを使命として事業を推進してまいります。
 第7次中期経営計画の達成に向け、Waste to Resource分野、カーボンニュートラル分野を中心とした受注の拡大に取り組むとともに、既に受注したプロジェクトに対しては、資機材費の高騰への対策や要員の適切な投入等に注力することにより、安定的な収益確保を目指してまいります。
 今後拡大する廃棄物発電施設の建替え需要を確実に捉えるとともに、施設操業の遠隔監視等、強みであるDXを活用したサービスを提供し、安定的に収益を見込める運営型事業の展開を加速いたします。さらに、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、従来の太陽光、バイオマスに加え、洋上風力発電や地熱発電分野での取り組みを強化するなど、事業を通じた社会全体のCO2排出量削減へ貢献してまいります。
 なお、本年10月に月島アクアソリューション株式会社との国内水エンジニアリング事業の統合を実施いたします。引き続きM&Aや業務提携等も活用して競争力強化を図るとともに、安心、安全な社会を創り人々のくらしを支える企業として取り組みを進めてまいります。

※ Waste to Resource:リサイクルや廃棄物発電等

 JFE商事株式会社においては、電磁鋼板の世界No1グローバル流通加工体制構築に取り組んでおり、現在国内の5拠点に加え、海外では中国、ASEAN、インド、メキシコ、カナダ等11カ国15拠点において事業を展開しております。2022年度には、名古屋および中国・浙江においてプレス加工設備の増強を実施しており、今後も、急速に拡大が見込まれる電磁鋼板の需要捕捉に向け、流通加工体制の構築を着実に進めてまいります。
 また、海外建材事業では、鋼製薄板建材製品の製造・販売会社である米国のCEMCO社を買収いたしました。安定した成長が期待される北米の薄板建材の需要を捕捉するとともに、米国JFE商事やJFEスチールの関連会社であるカリフォルニアスチール社等との連携を深め、収益の安定化に努めてまいります。さらに、自動車向け鋼材においては、ニューコア・JFEスチール・メキシコ社に隣接する加工センターにおける加工設備増強を決定するなど、グループ連携によるサプライチェーン強化を図ってまいります。なお、本年2月に太陽光パネルを静岡の鋼材加工センターに設置し、国内で初めて鋼材加工におけるCO2排出量の実質ゼロを実現しており、今後は他の鋼材加工拠点にも取り組みを拡大してまいります。引き続き第7次中期経営計画の達成に向け、マーケットにおけるJFEグループの存在感を高めるとともに、収益の拡大に努めてまいります。

 なお、2023年度におけるグループ全体の事業利益は、鉄鋼事業における構造改革完遂によるコスト削減の実現に加え、エンジニアリング事業における一過性の工事損失の影響がなくなること等もあり、2,900億円と前期に比べ増益を見込んでおります。引き続き、第7次中期経営計画の収益目標である連結事業利益3,200億円の達成に向けて取り組んでまいります。

〈グループ共通の取り組み〉

 当社グループは、気候変動問題への対応を経営の最重要課題と位置付け、「JFEグループ環境経営ビジョン2050」を掲げ、カーボンニュートラルの実現に向けて「鉄鋼事業のCO2排出量削減」「社会全体のCO2削減への貢献」を戦略の軸として取り組みを進めています。
 鉄鋼事業では、2030年度におけるCO2排出量を2013年度比で30%以上削減することを目標としており、既存プロセスの省エネルギー・高効率化および電気炉技術の活用等の取り組みを進めています。また、カーボンリサイクル高炉や水素製鉄(直接還元)等の超革新技術の開発にチャレンジし、2050年カーボンニュートラルの実現を目指しています。
 2030年度削減目標の達成に向けて、転炉においてスクラップ使用量の拡大により大幅なCO2排出量削減が可能となるプロセスを全地区に導入したことに加え、仙台製造所における電気炉の増強や千葉地区のステンレス製造プロセスにおける電気炉の導入等を決定いたしました。また、倉敷地区においては高炉の改修時期にあわせて高効率・大型電気炉の導入も検討しており、引き続き目標達成に向けて必要な設備投資を実行してまいります。なお、当期における技術開発の進捗等を精査、検証した結果、現時点の削減目標は適切であると判断しておりますが、今後トランジション技術の開発を促進し、さらなるCO2削減に向けて目標の見直しを検討してまいります。
 さらに、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、NEDOグリーンイノベーション基金事業の支援を受け、超革新技術の開発を複線的に進めております。千葉地区においては、カーボンリサイクル高炉の試験炉建設工事に着手しており、引き続き研究開発を推進するとともに、超革新技術の早期実装化にも取り組んでまいります。
 また、社会の脱炭素化ニーズが急速に高まるなか、自社のCO2排出削減技術により創出した排出削減量を適用したグリーン鋼材「JGreeXTM(ジェイグリークス)」の供給を開始いたします。2023年度は20万トン程度の供給を予定しており、カーボンニュートラル社会の実現に貢献できるグリーン鋼材の価値をお客様に認めていただけるよう市場の創出に積極的に取り組んでまいります。
 社会全体のCO2削減への貢献に関しては、EV向けモーターや変圧器の効率性向上に資する電磁鋼板等の環境配慮型商品の供給や再生可能エネルギーによる発電事業等の拡大にも取り組んでまいります。さらに、洋上風力発電の事業化にグループ全体で取り組んでおり、2022年度には着床式基礎構造物の製造・供給体制を整備すべく岡山県笠岡市においてモノパイル製造工場の建設に着手するなど、カーボンニュートラル社会の実現に向けて取り組みを継続してまいります。
 なお、気候変動問題への取り組みを加速させるインセンティブとして、気候変動に関する指標を役員報酬に連動させることを2023年3月に決定いたしました。引き続き、気候変動問題への解決に向けた取り組みを強力に推進することで、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

 第7次中期経営計画では、DXを創立以来最大の変革の鍵となる重要な戦略として位置付けております。当社グループで長年積み重ねてきた膨大なデータ・ノウハウ・技術は価値創造の源泉であり、それらを最大限に活用したCPS(Cyber Physical System※1)による高炉操業自動化の実現や製鉄プロセス全体への展開、発電プラント向け操業支援サービスである「RODAS®※2」のお客様への供給開始等、今後も労働生産性の向上や新たな付加価値の提供につながるDX戦略を推進し、差別化を図ってまいります。
 さらに、DXを推進するうえでサイバー攻撃や情報漏洩リスクへの対策はさらに重要性が高まっており、深刻化・巧妙化するサイバー脅威に対し、グループ全体のサイバーセキュリティ対策の一層の強化を進めてまいります。

※1 Cyber Physical System:製造プロセスの仮想モデルと現実のプロセスのリアルタイム融合化技術
※2 RODAS®:AI活用技術と操業支援技術を組み合わせたボイラ発電プラント向けDXサービス

 本年、上工程および熱延設備の休止を予定している京浜地区の土地利用転換については、扇町エリアの売却を決定したことに加え、南渡田エリア北地区北側において事業パートナーを選定し、研究開発機能を中心としたまちづくりに着手し、約400haにおよぶ大規模土地利用転換の第一歩を踏み出しました。扇島エリアについては、川崎市が策定する土地利用方針を踏まえて当社の整備方針を策定し、上工程等設備休止時期に合わせて公表する予定です。今後も「土地売却」「土地賃貸」「事業利用」の3つを軸に取り組みを推進してまいります。

 中長期の成長に向けた攻めの経営には安定した財務基盤の確立が必要であり、選択と集中に基づく効果的な投資の実行と財務健全性の確保を両立させることが重要です。2022年度には、事業の見直しによるグループ会社株式の譲渡や、政策保有株式の売却、京浜地区一部用地の売却等を実施し、資産圧縮に努めてまいりました。

 一方、成長戦略やカーボンニュートラルに資する投資を実施したことに加え、物価高騰や円安の進行等による運転資金増加の影響により、当期末の有利子負債残高は、前期に比べ135億円増加し、1兆8,629億円となりましたが、ネット有利子負債残高(※)は、前期に比べ41億円減少し、1兆7,435億円となりました。この結果、第7次中期経営計画の財務目標として掲げているDebt/EBITDA倍率は3.7倍、D/Eレシオは67.8%となりました。引き続き、事業や資産の見直しによる徹底した資産圧縮と、棚卸資産圧縮等によるCCC(Cash Conversion Cycle)の改善により、投資に向けた必要資金を確保するとともに財務健全性の確保に努めてまいります。

※ ネット有利子負債残高:有利子負債残高-現預金および現金同等物

 当社グループは、人権が尊重・擁護される社会の実現に向けて人権デューディリジェンスに取り組んでおり、更なる推進に向けて2023年4月にグループ人権基本方針の改正を行いました。今後もサプライチェーンも含めたすべてのステークホルダーに対する人権尊重のために取り組みを拡大してまいります。
 また、複雑化・多様化する変化の激しい経営環境下で、当社グループが将来にわたって持続的な成長を成し遂げるためには、人的資本への投資を通じて従業員の能力や活力を最大限に引き出すことが不可欠です。従業員の能力発揮や活性化につながる働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを進めるとともに、安全で健康的な職場環境の整備に向けた取り組みに注力してまいります。

 当社はグループの経営課題を着実に実行するため、株主利益に適うグループ経営および健全なコーポレートガバナンスの要としてその機能を充実させるとともに、さらに効率的な運営を図ってまいります。

 なお、JFEエンジニアリング株式会社が2017年6月および2020年6月に沖縄県竹富町と契約した海底送水管更新工事に関して、入札談合等関与行為防止法違反容疑および公契約関係競売入札妨害容疑で、同社社員3名が起訴され、2022年8月に、うち1名(同社元社員)が那覇地方裁判所において有罪判決を受けました。
 このような事態に至りましたことは誠に遺憾であり、株主の皆様をはじめ関係者の方々には多大なるご迷惑とご心配をおかけしておりますことを深くお詫び申しあげます。
 本事案を厳粛かつ真摯に受け止め、係属している同社社員の裁判の進捗を注視しつつ、原因究明を進めるとともに、再発防止に取り組み、早期の信頼回復に努めてまいります。

 JFEグループは、社会との信頼関係の基本である、コンプライアンスの徹底、環境課題への取り組み、安全の確立について、グループをあげて真摯な努力を継続してまいります。また、第7次中期経営計画で掲げた施策を完遂し、企業としての持続的な成長と株主の皆様をはじめすべてのステークホルダーにとっての企業価値の向上に努めることにより資本市場の評価を高めてまいります。
 株主の皆様におかれましては、JFEグループに対し、なお一層のご理解をいただくとともに、ご指導ご支援を賜りますようお願い申しあげます。

2023/06/27 12:00:00 +0900
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